薬剤師国家試験 第97回 問286-287 過去問解説

 問 題     

60歳男性。半年前より、咳及び痰が出現しているが、軽度であり放置していた。今回、会社の健康診断で肺の腫瘤陰影を指摘され、呼吸器内科を受診した。

【既往歴】
特になし。

【喫煙歴】
20歳頃より現在まで喫煙中。現在20本/日

【検査所見】
胸部X線:右肺門部に径3cmの腫瘤陰影が認められた。
気管支内視鏡検査:右主気管支の圧迫像が認められた。
気管支肺生検:小細胞肺癌の診断であった。

問286

本症例の治療に適切な薬物はどれか。2つ選べ。

  1. フルオロウラシル
  2. ブレオマイシン塩酸塩
  3. ゲムシタビン塩酸塩
  4. イリノテカン塩酸塩
  5. シスプラチン

問287

上記の治療開始後に胸痛を訴えたため、CT及びPET検査を行ったところ、胸椎に骨転移が認められた。患者は胸痛が強く、痛みによる睡眠障害も出現していたため、疼痛緩和治療としてモルヒネ硫酸塩水和物徐放錠が処方された。

この薬剤の病院における取扱いに関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. 施設内で使用する麻薬処方せんであったので、麻薬処方せんに入院患者の住所を記載することを省略した。
  2. 施設に常勤している医師が処方したので、麻薬処方せんに麻薬施用者番号を記載することを省略した。
  3. 薬剤部において収納スペースが狭かったので、覚せい剤と一緒に施錠できる堅固な金庫内に保管した。
  4. 薬剤部の金庫内で保管中に不要になったので、都道府県知事に麻薬事故届を提出して適切に廃棄した。
  5. 病棟において残薬が生じたので、麻薬管理者に返却することなく回収困難な方法にて廃棄した。

 

 

 

 

 

正解.
問286:4, 5
問287:1, 3

 解 説     

問286

小細胞肺がんの代表的な治療法としては、PE 療法→シスプラチン、エトポシドの併用、IP 療法→イリノテカン、シスプラチンの併用、CAV 療法→シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチンの併用があります。

シスプラチンは、プラチナ製剤です。アルキル化剤と類似した作用機序を示します。DNA に架橋形成で、細胞増殖を抑制します。激しい嘔吐が副作用に起こりやすいため、支持療法として 5-HT3 受容体拮抗薬とデキサメタゾンの併用が行われます。

エトポシドは、トポイソメラーゼ II 阻害剤です。DNA 複製阻害を起こします。

イリノテカンは、体内で代謝活性体に変換されてトポイソメラーゼ I を阻害します。副作用として、高度の下痢に注意する必要があります。半夏瀉心湯が、イリノテカンの副作用の下痢を抑制する漢方として有名です。

シクロホスファミドは、アルキル化剤です。DNAに架橋を形成し、DNA複製を阻害します。副作用として、出血性膀胱炎が知られています。これは、代謝を受けて生成されるアクロレインによる副作用です。アクロレインによる下痢を予防するために、メスナという薬が使用されます。

ドキソルビシンは、DNA の塩基対間に挿入し、DNA 合成抑制作用を示します。副作用として、心毒性に注意が必要です。

ビンクリスチンは、微小管の重合反応を阻害することにより、有糸分裂を阻害します。副作用として、神経毒性に注意が必要です。

以上より、正解は 4,5 です。

問287

麻薬処方せんには、患者の住所を記載することが必要です。しかし、院内処方せんの場合は、記載を省略することができます。

麻薬処方せんには、麻薬施用者の記名押印 または 署名、および免許番号の記載が必要です。これは、省略することはできません。よって、選択肢 2 は誤りです。

麻薬は、覚せい剤原料とは一緒に保管してはいけません。覚せい剤とは、一緒に保管しても大丈夫です。

麻薬事故届とは、管理している麻薬が滅失、破損、流失などといった事故が起きた時に提出する届です。不要になった麻薬を廃棄する時は、麻薬廃棄届けを提出し、当該職員の立ち会いのもと、回収できないように廃棄します。よって、選択肢 4 は誤りです。

医療用麻薬は厳密な管理が法的に義務づけられています。調剤済みの麻薬で、廃棄する場合は、麻薬管理者の責任のもと、他の職員の立ち会いのもと回収困難な方法で廃棄します。よって、選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 1,3 です。

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