問 題
63 歳男性。慢性心不全と診断され、治療中である。その他の既往歴及び常用薬はない。
問156
心不全治療薬に関する記述として、正しいのはどれか。2 つ選べ。
- ミルリノンは、ホスホジエステラーゼⅢ (PDEⅢ) を阻害して、心筋細胞内サイクリック AMP (cAMP) の分解を抑制する。
- コルホルシンダロパートは、Na+,K+ – ATPase を阻害して、陽性の変力作用及び陰性の変時作用を示す。
- イバブラジンは、ネプリライシンを阻害して、心房性ナトリウム利尿ペプチドの分解を抑制する。
- カンデサルタンは、アンジオテンシンⅡAT1 受容体を遮断して、心筋のリモデリングを抑制する。
- ベルイシグアトは、過分極活性化環状ヌクレオチド依存性 (HCN) チャネルを遮断して、心拍数を減少させる。
問157
服薬は正しく継続され、副作用もみられなかったが、1 ケ月前から労作時の息切れが徐々に増悪するようになった。
2 ~ 3 日前からは安静時にも息苦しさを自覚するようになり、昨夜突然、強い咳を伴った呼吸困難が出現したため救急搬送された。下肢に浮腫が認められ、血圧は 88/60 mmHg であった。
心臓超音波検査を行ったところ、左室駆出率 (LVEF) は 30 % に低下していた。さらに、胸部 X 線検査により肺うっ血と軽度な心拡大の所見が認められ、慢性心不全の急性増悪と診断され入院となった。
この患者の来院時の病態及び症状に関する記述として、正しいのはどれか。2 つ選べ。
- 右心機能は正常である。
- 心臓からのナトリウム利尿ペプチドの分泌が亢進している。
- 心電図で ST 上昇が認められる。
- 呼吸症状は、起坐位よりも仰臥位で増悪する。
- 尿量は増加している可能性が高い。
問156:1, 4
問157:2, 4
解 説
問156
選択肢 1 は妥当です。
ミルリノンは、ホスホジエステラーゼⅢ阻害薬です。
選択肢 2 ですが
コルホルシンダロパートは、アデニル酸シクラーゼ(AC)活性化薬です。「Na+, K+ – ATPase 阻害」ではありません。選択肢 2 は誤りです。
選択肢 3 ですが
イバブラジンは、心臓洞結節にある、過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN)チャネルを阻害することにより、心拍数を抑える薬です。選択的洞結節抑制薬とも呼ばれます。
脳性ナトリウム利尿ペプチド (BNP) の分解酵素であるネプリライシンを阻害して作用するのは「サクビトリル」です。選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4 は妥当です。
カンデサルタンは、ATⅡタイプ 1 受容体拮抗薬 (AT1 受容体拮抗薬) です。
選択肢 5 ですが
ベルイシグアトは、sGC 刺激薬です。NO (一酸化窒素) を介さず、sGC:Soluble guanylate cyclase 可溶性グアニル酸シクラーゼ)という受容体を直接刺激して cGMP を増やします。HCN チャネル遮断薬ではありません。選択肢 5 は誤りです。
以上より、正解は 1,4 です。
類題 109-159
https://yaku-tik.com/yakugaku/109-159/
参考 心不全の病態生理、治療薬、注意点
https://yaku-tik.com/yakugaku/bt-2-2-3/
問157
選択肢 1 ですが
右心は「静脈血を肺に送る」部分です。下肢の浮腫が静脈血の循環不全を示唆しており、「右心機能が正常である」と判断することはできない症例です。選択肢 1 は誤りです。
選択肢 2 は妥当です。
ナトリウム利尿ペプチドは、心臓に負担がかかると分泌され、心臓を保護する作用 (利尿作用や血管拡張作用など) を持ちます。
選択肢 3 ですが
ST 上昇は、心筋梗塞時によく見られる特徴的な心電図の波形です。本症例は心筋梗塞ではありません。選択肢 3 は誤りと考えられます。
選択肢 4 は妥当です。
左心不全や喘息で見られる起坐呼吸 (きざこきゅう:呼吸困難が臥位で増強、起坐位で軽減する臨床的症候) についての記述です。
選択肢 5 ですが
心不全 → 血流減少 → 尿量減少と考えられます。選択肢 5 は誤りです。
以上より、正解は 2,4 です。

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