薬剤師国家試験 第109回 問276-277 過去問解説

 問 題     

75 歳男性。身長 164 cm、体重 52 kg。胃全摘出術後 3 日目の消化器外科入院中に、38.3 ℃ の発熱が認められ、咳、痰と呼吸困難を訴えた。

胸部 X 線検査で右下肺野に浸潤影を認め、喀痰培養検査により MRSA が検出されたため、以下の処方により治療を開始することとなった。

問276

消化器外科担当の看護師から感染制御部の薬剤師に、この処方薬剤に関する情報の提供依頼があった。薬剤師が看護師に情報提供する内容として、適切なのはどれか。2 つ選べ。

  1. 処方薬剤の投与により血圧が上昇しやすいので、定期的に血圧を確認すること。
  2. 処方薬剤は塩化物イオン濃度が低くなると活性が低下するため、ブドウ糖液との混和は避けること。
  3. 腎機能が低下しているため、処方薬剤の用量調節をすること。
  4. 第8脳神経障害が発現することがあるため、耳鳴、聴力低下がないか確認すること。
  5. レッドネック症候群の発現を防ぐために、60 分以上かけて点滴静注すること。

問277

この患者におけるバンコマイシンの分布容積は 62.5 L、クリアランスは 3.6 L/h と見積もられている。2 回目投与直前のバンコマイシンの血中濃度と定常状態におけるトラフ値の組合せとして適切なのはどれか。1 つ選べ。

ただし、投与量の計算において、投与に要する時間は投与間隔に対して無視できるほど短いものとし、投与中における体内からのバンコマイシンの消失は無視できるものとする。

 

 

 

 

 

正解.
問276:4, 5
問277:3

 解 説     

問276

バンコマイシンの注射は 60 分以上かけてゆっくり点滴静注します。これはレッドネック症候群、すなわちバンコマイシンを急速に点滴した際に見られる顔や頸部の発赤、血圧低下などを避けるためです。


選択肢 1 ですが

「血圧低下」に注意します。血圧上昇ではありません。選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 ですが
「塩化物イオン濃度が低くなると活性が低くなる」のはシスプラチンなどです。バンコマイシンではありません。選択肢 2 は誤りです。

選択肢 3 ですが
血清クレアチニン、BUN 共に基準値内です。eGFR もそこまで低くありません。用量調節は不要です。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 は妥当です。
第8脳神経障害の副作用は「アミノグリコシド系」の代表的副作用ですが、グリコペプチド系でも知られています。具体的には、難聴などが副作用となります。

選択肢 5 は妥当です。
バンコマイシンの注射方法及び意図についての記述です。


以上より、問 276 の正解は 4,5 です。

参考 代表的な腎機能検査
https://yaku-tik.com/yakugaku/bt-1-2-2/

問277

・CL = ke・Vd、T1/2 ≒ 0.7/ke です。これは基礎知識です。

ke = 3.6/62.5 = 0.0576 なので
T1/2 ≒ 0.7/0.0576 ≒ 12h です。


・Vd = D/C0
より、初回投与直後の血中濃度がわかります。投与量 D は 0.5g バイアル 2 本なので、1.0g = 1000mg です。

62.5 (L) = 1000 (mg) / ? (mg/L) となります。
? ≒ 16 です。


・2 回目投与直前の濃度は、初回投与から半減期経っているので、
C0/2 です。従って、2 回目投与直前は 16/2 = 8 です。正解は 3 or 4 です。


・初回投与 → 2 回目投与直前が 16 → 8 です。そして 2 回目投与直後 は 8 + 16 = 24 となります。3 回目投与直前は 24 ÷ 2 = 12 です。

16 → 8 → 24 → 12 → 28 → 14 → 30 → 15 → 31 → 15.5 → 31.5 … と「投与直前 + 16 → 半分にする」という計算を繰り返していけば、定常状態におけるトラフが 16、ピークが 32 とわかります


以上より、問 277 の正解は 3 です。

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