薬剤師国家試験 第107回 問300-301 過去問解説

 問 題     

72 歳男性。S 状結腸穿孔により腹膜炎を発症し、敗血症性ショックの診断で集中治療室 (ICU) に入室となった。

人工呼吸器管理下でノルアドレナリン注射液、ドブタミン塩酸塩注射液及び注射用メロペネムを使用していたが、皮下出血、血小板数の低下、プロトロンビン時間の延長及びフィブリノゲンの低下が観察され、敗血症性播種性血管内凝固症候群 (DIC) と診断された。

DIC 診断に伴い、未分画ヘパリンおよびガベキサートの投与が開始された。開始後は活性化部分トロンボプラスチン時間 (APTT) の延長が認められたが、数日後 APTT の延長が乏しくなった。

現在の所見及び検査値は以下のとおりである。

(所見及び検査値)

体温 37.6℃、脈拍数 92拍/分、呼吸数 22回/分、赤血球数 500×104/μL、白血球数 14,500/μL、血小板数 6.1×104/μL、CRP 7.8mg/dL、アンチトロンビン活性 62%、APTT 18.1秒(基準対照32.2)、フィブリン・フィブリノゲン分解産物(FDP) 20.4μg/mL(基準値<5)

問300

この患者に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. Dダイマー/FDPの比は低下している。
  2. ガベキサートの使用により、出血リスクが高くなっている。
  3. 細小血管に微小血栓が形成されている。
  4. 死に至る可能性は極めて低い。
  5. 腎機能のモニタリングが必要である。

問301

今後の治療について、医師よりICU担当薬剤師に意見を求められた。適切な提案はどれか。2つ選べ。

  1. 未分画ヘパリンを中止し、トラネキサム酸を投与する。
  2. アンチトロンビンガンマを投与する。
  3. 出血がないことを確認して、トロンボモデュリンアルファを投与する。
  4. 人赤血球液を投与する。
  5. アスピリンを投与する。

 

 

 

 

 

正解.
問300:3, 5
問301:2, 3

 解 説     

問300

選択肢 1 ですが
D ダイマーは、プラスミンによる FDP 分解産物です。FDP(fibrin degradation product)は、プラスミンによる フィブリノーゲンやフィブリンの分解産物です。共に、血栓を分解する線溶系を反映します。体中至る所で血栓ができる 敗血症性 DIC においては、FDP も、D ダイマーも増加します。そのため「比が低下している」わけではありません。選択肢 1 は誤りです。


選択肢 2 ですが
ガベキサートは、タンパク質分解酵素阻害薬です。DIC では、全身に血栓ができつつ、血小板減少に伴い出血傾向となります。(参考 病態・薬物治療学 播種性血管内凝固症候群(DIC)の病態生理、治療薬、注意点)。

ガベキサートの使用により、トロンビン(フィブリノーゲン → フィブリン を触媒する酵素)阻害による過剰な凝固系の活性化防止と、線溶系を担うプラスミン阻害による、線溶系活性抑制などを通じ、出血リスクを低下させます。


選択肢 3 ~ 5 ですが
細い血管が詰まるため、血流が妨げられ、腎臓や肺などの臓器障害を起こし、生命に重大な危険をもたらしえます。腎機能などのモニタリングが必要です。選択肢 3,5 は妥当です。選択肢 4 は誤りです。


以上より、問 300 の正解は 3,5 です。

問301

選択肢 1 ですが
DIC に対するトラネキサム酸などの 抗線溶薬 の投与は、血栓の安定化を避けるため、ヘパリン等との併用が必要です。「ヘパリン中止し、トラネキサム酸投与」は適切ではありません。選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2,3 は妥当です。
トロンボモデュリンについて、106-162 参照。

選択肢 4 ですが
赤血球数は基準値範囲内であり、特に必要ないと考えられます。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 ですが
アスピリンは低用量で用いる場合、抗血小板薬です。DIC において抗血小板薬は用いません。選択肢 5 は誤りです。

以上より、問 301 の正解は 2,3 です。

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