問 題
62 歳男性。15 年前に糖尿病と診断され治療を続けてきたが、血糖値のコントロールは不十分で、下肢の潰瘍の治療目的で入院した。
入院中に発熱と呼吸困難、咳を訴え、喀痰検査より MRSA 感染症と診断され、バンコマイシン塩酸塩による治療を実施することになった。
(身体所見及び検査値)
体重 60kg、身長 170 cm、ALT 23 IU/L、AST 18 IU/L、eGFR 24 mL/min/1.73m2、HbA1c 9.2%(NGSP値)
問272
この患者に対し、バンコマイシン塩酸塩を1日1回1g、点滴静注することになった。
初回投与開始後、3 時間及び 24 時間 (2回目の投与直前) に採血を行いバンコマイシンの血中濃度を測定したところ、それぞれ 40 μg/mL及び16 μg/mLであった。次の採血ポイントとして、定常状態における最低血中濃度の 90 %以上に到達した最初のトラフ濃度を測定したい。
この患者における消失半減期(h)と次の採血ポイントの組合せとして適切なのはどれか。1つ選べ。
ただし、バンコマイシンの体内動態は線形 1-コンパートメントモデルに従うものとし、ln2=0.693、ln5=1.609とする。
問273
この患者におけるバンコマイシンの治療薬物モニタリング (TDM) 及び治療上の注意に関する記述として、適切なのはどれか。2つ選べ。
- 血糖値が高いとバンコマイシンの血中濃度が過小評価されるので、過量投与にならないよう注意する。
- 消失半減期が延長しているため、反復投与による血中濃度の上昇に注意する。
- 点滴終了から 1~2 時間後にピーク濃度を測定し、最小発育阻止濃度以上の血中濃度であれば十分な治療効果が見込める。
- 1日1回1g の投与を続けると、定常状態ではトラフ濃度が 32 μg/mLを超えると見積もられる。
- 下肢潰瘍に対する抗真菌薬治療を行う場合、アムホテリシンBとの併用は腎障害の危険性が高まるため避けることが望ましい。
正解.
問272:6
問273:2, 5
解 説
問272
3時間後の血中濃度が 40、24 時間後の血中濃度が 16 とあります。21 時間経過しています。選択肢に注目すれば、半減期の候補は 12,14,16h です。半減期が 12h とすれば、ほぼ2半減期までもうすぐなので 40 → 20 → 「10」 に近い値と考えられます。もう少し半減期は長いと判断できるのではないでしょうか。
半減期が 14h とすると、21 時間は、ちょうど 1.5 半減期です。大雑把な評価ですが、21 時間後の血中濃度は、40 → 20 → 「15 より少し小さい値」です。濃度が高いほど消失速度は速いため、 20 → 15 の時間と、15 → 10 の時間を比較すれば、始めの 20 → 15 に濃度が減少する時間の方が速いからです。従って、もう少し半減期は長いはずです。半減期は 16h で、正解は 5 or 6 とわかります。
半減期の5倍程度で定常状態なので、16 × 5 = 80 = 3日と 8 時間後ぐらいが定常状態です。3回目の投与直前だと 2 日しかたっていないため、少し早すぎると思われます。従って、3日経っている4回目の投与直前が妥当と考えられます。以上より、正解は 6 です。
問273
選択肢 1 ですが
バンコマイシンの血中濃度測定について、血糖値による過小評価は知られていません。選択肢 1 は誤りです。
選択肢 2 は妥当です。
検査値から腎機能低下しており、バンコマイシンの消失半減期が延長しています。
選択肢 3 ですが
ピークではなく、トラフ濃度が最小発育阻止濃度以上であることが求められると考えられます。選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4 ですが
半減期が 16h なので、投与間隔が 24h であれば、静注した瞬間の血中濃度を 「1」 とおけば、2回目投与前に「1/3」程度の血中濃度になっていると考えられます。 そしてまた 1 を追加するので、2回目静注した瞬間の血中濃度は、1 + 1/3 です。同様に考えて、次の3回目の静注投与で ⅓(1+ ⅓) + 1 = 1 + ⅓ + 1/9 となります。繰り返していけば、1 + ⅓ + 1/9 + … となります。
初項 1、公比 1/3 の無限等比級数の和を公式 「a/1-r」(a は初項、r は公比) で計算すれば、1 + ⅓ + 1/9 + … → 1/(1-⅓) = 3/2 です。つまり、初回投与後のトラフ濃度である 16 μg/mL に対し 1.5 倍までしか上昇しないはずとわかります。32 μg/mL は超えません。選択肢 4 は誤りです。
選択肢 5 は妥当です。
以上より、正解は 2,5 です。
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