問 題
臭化アルキル(R-Br)に求核剤(Y-)を作用させる置換反応について、反応の進行に伴う自由エネルギー変化を図示するとA又はBのようになる。以下の記述のうち、正しいのはどれか。1つ選べ。
- Aの反応は吸エルゴン反応である。
- Bの反応は二分子反応である。
- Aの反応において、臭化アルキルの置換基Rの影響によりaの状態が混み合ってくると、エネルギーⅠが大きくなる。
- Bの反応においては、bからcに至る段階が律速となる。
- Aの反応において、R-Brとして2-ブロモブタンの一方のエナンチオマーのみを用いたとき、生成物はラセミ混合物となる。
解 説
選択肢 1 について、反応によって自由エネルギーが増える場合が吸エルゴン反応、減る場合が発エルゴン反応です。Aの反応は自由エネルギーを放出して自身の自由エネルギーは減っているので、発エルゴン反応となります。よって、これは誤りです。
選択肢 2 について、Aの反応はSN2反応(二分子的求核置換反応)で、Bの反応はSN1反応(一分子的求核置換反応)なので、「Bの反応は二分子反応」というのは誤りです。
SN1反応の反応機構は、まず基質の脱離基が脱離することによってカルボカチオン中間体が生成し、続いて求核試薬がこのカチオンを求核攻撃します。このような2段階反応なので、中間体のあるBの図のほうがSN1反応に相当すると判断できます。
一方のSN2反応は脱離と求核攻撃が同時に起こります。よって、1段階反応であるAの図がSN2反応に相当すると判断できます。
選択肢 3 は正しい内容です。基質の構造が立体的に混んでいると求核剤が近づきにくくなるので、置換反応を起こすためにはより大きいエネルギーが必要となります。よって、これが正解です。
選択肢 4 について、SN1反応では、基質の脱離基が脱離してカルボカチオン中間体ができる1段階目の反応が律速となります。よって、これは誤りです。
今回の問題に限らずSN1反応では1段階目の反応が律速となりますが、もしそれを知らなくても、図から最も自由エネルギーが高いのが1つ目の山(中間体bに至る段階)だとわかるので、こちらが律速であると判断することが可能です。
選択肢 5 について、Aの反応はSN2反応なので、中間体を経ない1段階反応です。そのため反応前後で立体は保持されるので、基質が一方のエナンチオマーのみなら、生成物もそれに応じたエナンチオマーとなります。よって、これは誤りです。
一方、Bの反応はSN1反応です。この場合は2段階反応なのでカルボカチオン中間体を経ますが、このカチオンが平面的(sp2混成軌道)なので、求核剤はこの平面の表からでも裏からでも等しく求核攻撃できます。よって、SN1反応の生成物はラセミ体となります。
以上より、正解は 3 です。
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