問 題
62歳男性。1ヶ月ほど前から息切れ、呼吸困難などの心不全症状が出現し、アルコール性心筋症との診断を受け、以下の処方により加療中である。薬剤師が現在の症状を確認すると「最近は呼吸が苦しくなることが多く、家の中で座っていれば問題ないが、少し散歩するだけでも息切れがする」との訴えがあった。
既往歴:高血圧
飲酒歴:心不全症状が出現するまで20年間の大量の飲酒歴があり、禁酒を指導されたが、現在も機会飲酒。
検査データ:左室駆出率 23%、下肢浮腫 (+)、Na 140mEq/L、K 3.6mEq/L、Cl 105mEq/L、SCr 1.0mg/dL、血圧 123/72mmHg、心拍数 62bpm(洞調律)
問290
この患者の病態に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
- 適切な治療を施しても生存率が低く予後不良である。
- NYHA機能分類度(中等度~重症)の心不全症状を呈している。
- 肥大型心筋症の病態を呈している。
- カリウムの摂取制限が推奨される。
- 治療の基本に断酒がある。
問291
薬剤師は、現在の病態から、患者の薬物療法に関するアセスメントを行い、今後のプランを考えた。追加を推奨する薬剤として最も適切なのはどれか。1つ選べ。
- アロプリノール
- エポエチンアルファ
- アテノロール
- カンデサルタンシレキセチル
- ジゴキシン
正解.
問290:2, 5
問291:5
解 説
問290
お父さんぐらいの年齢。酒飲み。労作性の狭心症症状が出てる。既往が高血圧だが、現在はコントロール良好。
アルコール性心筋症とは、過度の飲酒などで、心筋が薄くなり心機能が悪くなっている症状。アルコールを断つと治るとされる。アルコールが原因である二次性心筋症の一種。
選択肢 1 ですが
アルコールをやめれば、予後良好です。よって、選択肢 1 は誤りです。
選択肢 2 は、正しい記述です。
NYHA (New York Heart Association)分類とは、心不全の重症度分類です。Ⅰ度~Ⅳ度があり、より重症になるにつれ、数字が増えます。Ⅳ度だと、安静時ですら心不全症状がある状態です。患者は「少しの散歩」でも息切れ症状が出ています。これは、重症度で言えばⅢ度です。
選択肢 3 ですが
心肥大とは、心筋が厚くなって肥大するということです。アルコール性心筋症では、心筋が薄くなります。よって、選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4 ですが
カリウム値は基準値内であり、特に摂取制限の理由も見当たりません。よって、選択肢 4 は誤りです。
選択肢 5 は、正しい選択肢です。
以上より、正解は 2,5 です。
問291
選択肢 1 ですが
アロプリノールは、XO 阻害薬です。キサンチンオキシダーゼを阻害することにより尿酸の生合成を抑制します。尿酸に関しての記述はなく追加を推奨する根拠がないと考えられます。
選択肢 2 ですが
エポエチンアルファは、エリスロポエチン製剤です。エリスロポエチンとは腎臓で産生される赤血球産生を促進させるホルモンです。腎機能の低下などによるエリスロポエチン産生減少に対して、エリスロポエチンを補充することにより貧血症状の改善を図る薬です。腎性貧血に関する記述はなく追加を推奨する根拠がないと考えられます。
選択肢 3 ですが
アテノロールは、β1 選択的遮断薬です。心筋収縮力と心拍数を低下させることにより心筋の酸素消費を減少させます。心不全治療薬の一種ではあるのですが本症例では、カルベジロールを既に使用している状態で左室駆出率が23%(正常とされるのは 50~80%が目安)、つまり心臓において血液を全身に送る部分の機能がかなり弱っていることがわかります。
さらにβ遮断薬を追加すると、心臓の機能を弱めすぎる懸念があり適切ではないと考えられます。(これは、心臓を「長年無理した人」として、β遮断薬投与を「無理やり休ませるプログラム」と考えるとイメージしやすいかもしれません。現在、無理した人が自分から休むことであまり頑張らず、いい感じになっている所なのですが、更に「外に出てもだめ。ベッドから出ちゃだめ。ずっと寝てて。」と、休ませるプログラムを更に追加し過剰に休ませると、今度は弱りすぎて逆によくないからある程度は動いていて欲しい。追加で更に休息を強めさせる必要はない というイメージです。)
選択肢 4 ですが
カンデサルタンは、ATⅡ受容体拮抗薬です。降圧薬です。血圧は問題なく追加推奨の根拠がありません。
以上より、正解は 5 です。
標準的な心不全治療が行われているにも関わらず左室駆出率が低いことから、追加するものとしてジゴキシンが適当であると考えられます。
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