薬剤師国家試験 第100回 問204-205 過去問解説

 問 題     

悪性リンパ腫の患者に対し、注射用シクロホスファミド水和物950mgを500mLの生理食塩液に溶解し、90分間かけて点滴静注することになった。

問204

調製を担当する薬剤師が注意することとして、適切でないのはどれか。1つ選べ。

  1. ガウン、手袋(二重)、マスク、キャップなどで皮膚を覆った状態で、安全キャビネット内で調製する。
  2. バイアルに生理食塩液を加えるときは、予めシリンジで相当する空気を送り込んでバイアル内を陽圧状態にしておく。
  3. 溶解操作を行ったときには、必ず目視で完全に溶解したことを確認する。
  4. シリンジは、注射針が外れるのを防ぐため、ルアーロック式が望ましい。
  5. 調製によって生じたゴミは、チャック付のビニール袋等に入れる。

問205

調製作業後、安全キャビネット周辺のシクロホスファミドの飛散状況を液体クロマトグラフィー/質量分析法(LC/MS)を用いて確認することになった。以下の記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. 本薬物は難揮発性物質であるので、トリメチルシリル(TMS)化などの誘導体化が必要である。
  2. 本薬物は、大気圧イオン化法であるエレクトロスプレーイオン化(ESI)法によりイオン化される。
  3. 塩素の安定同位体は、整数原子量が35と37のものがほぼ3:1で存在するため、本薬物の分子イオンピークをMとすると、質量数がM、M+2、M+4の3本のピークは、強度比約1:2:1で観測される。
  4. 本薬物の定量に重水素標識体を内標準物質として用いる際には、その放射性があるため、使用場所が制限される。
  5. 本薬物のような低分子の測定では、タンデム型質量分析計を用い、プリカーサーイオン(前駆イオン)とそこから生成するプロダクトイオンを選択することで、薬物に対する選択性が向上する。

 

 

 

 

 

正解.
問204:2
問205:2, 5

 解 説     

問204

選択肢 1,3,4,5 は、正しい選択肢です。

選択肢 2 の記述ですが
バイアル内が陽圧、つまりバイアル内の圧力が高くなっていると、バイアルを開けた時に外に向かって吹き出してくることになります。これは、暴露につながる危険な状態です。バイアル内は、陰圧にしておきます。

以上より、正解は 2 です。

問205

選択肢 1 ですが
シクロホスファミドは、揮発性が高い物質として知られています。難揮発性物質では、ありません。よって、選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 は、正しい選択肢です。

選択肢 3 ですが
原子量 35 の塩素 を Cl 35 、原子量 37 の塩素 を Cl 37 と表します。構造を見るとシクロホスファミドには、塩素が2ヶ所あります。それぞれが、Cl 35 である確率は、 75 % 、Cl 37 である確率は 25 % です。

従って、両方の塩素が Cl 35 である確率 → 0.75 × 0.75 = 0.5625 (9/16)

両方の塩素が Cl 37 である確率 → 0.25 × 0.25 = 0.0625 (1/16)

それぞれの塩素が Cl35、Cl37 1つずつである確率 → 6/16 (1-9/16 - 1/16 で求めました。)となります。

すると、分子イオンピークは、両方の塩素が Cl 35 である場合であり、この質量数を M とすると、M、M+2、M+4 のピーク比は 9:1:6 であると考えられます。
1:2:1 ではありません。よって、選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 ですが
重水素は、放射性物質では、ありません。よって、選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 は、正しい選択肢です。

以上より、正解は 2,5 です。

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