薬剤師国家試験 第100回 問196-199 過去問解説

 問 題     

慢性動脈閉塞症(バージャー病)の65歳男性。安静時にも疼痛を訴えるため、医師からプロスタグランジンE1(アルプロスタジル)注射剤を投与したいと、朝のカンファレンスにおいて提案があった。

プロスタグランジンE1製剤として、α-シクロデキストリンを含む注射用アルプロスタジルアルファデクスと、リポ化製剤のアルプロスタジル注射液が院内で採用されている。

医師は、2つの製剤に関する情報提供を薬剤師に求めた。

問196

注射用アルプロスタジルアルファデクスは、α-シクロデキストリン及び乳糖水和物を含む用時溶解型の凍結乾燥製剤である。提供する情報として、誤っているのはどれか。1つ選べ。

  1. 溶解液には、生理食塩液を用いる。
  2. 溶解後1時間経過したものは、廃棄する。
  3. 静脈及び動脈内に持続的な投与が可能である。
  4. 本剤による治療は、対症療法に位置づけられる。
  5. 出血している患者には投与しない。

問197

アルプロスタジル注射液10μgは、以下の組成のリポ化製剤である。

薬剤師が、医師に対して提供するアルプロスタジル注射液の情報として、正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. 澄明な溶液である。
  2. 凍結して保存する。
  3. 5%ブドウ糖注射液に混和して、点滴静注することができる。
  4. ポリ塩化ビニル製の輸液セットを用いる必要がある。
  5. 病変部位に集積する性質をもつ。

問198

注射用アルプロスタジルアルファデクス中のα-シクロデキストリンは、プロスタグランジンE1をモル比1:1で包接する。注射用アルプロスタジルアルファデクス(20μg)を25℃、1mL注射用水に溶解した。この時、65%のプロスタグランジンE1がα-シクロデキストリンから解離していた。

プロスタグランジンE1のα-シクロデキストリンへの包接化の平衡定数(L・mol1)として最も近いのはどれか。1つ選べ。ただし、この注射用粉末にはプロスタグランジンE1が56.4nmol、α-シクロデキストリンが685nmol含まれるとする。

  1. 8.1×102
  2. 9.0×102
  3. 9.0×103
  4. 8.1×104
  5. 9.0×105

問199

リポ化製剤であるアルプロスタジル注射液は、ダイズ油を分散体の主成分とする油滴分散体である。この分散体を球体としたとき、分散体の内圧は、外圧に対してどの程度高いか。最も近い値はどれか。1つ選べ。

ただし、以下に示すヤング・ラプラスの式が成り立つとし、油滴分散体の直径は、約120nm、分散体の主成分であるダイズ油の注射液界面に対する界面ギブズエネルギーは、25mJ/m2とする。ただし、分散体中の界面活性剤の影響はないものとする。

  • ΔP:液滴内外の圧力差
  • γ:界面張力
  • r:液滴の半径
  1. 8.3×104Pa
  2. 1.7×105Pa
  3. 4.2×105Pa
  4. 8.3×105Pa
  5. 1.7×106Pa

 

 

 

 

 

正解.
問196:2
問197:3, 5
問198:1
問199:4

 解 説     

問196

選択肢 1 は、正しい選択肢です。
注射用アルプロスタジルアルファデクスは、生理食塩液に溶かして用います。

実際の試験ではピンポイントにこの知識がない可能性が高いです。そこで、一つの考え方として生理食塩液を加えた場合の代表的な配合変化といえば塩析 に基づくもの → タンパク質が含有されているかどうか → 本製剤は プロスタグランジン+シクロデキストリン → 塩析は生じない → この選択肢が誤りではない といった考え方があると思います。

選択肢 2 ですが
溶解後、1時間で廃棄する必要はありません。よって、選択肢 2 は誤りです。

この選択肢も、ずばりこの知識を試験会場で思い出すのは期待できないかもしれません。そこで、一つの考え方としては「静脈注射を実習で見学した時のこと」 などを参考に「選択肢 3 と結びつけて推測」するのが現実的ではないかと思います。

すなわち「選択肢 2 が正しいと仮定する → 溶かして1時間で廃棄するような注射剤である → (実習などからのイメージで)よくある静注は時間をかけて投与していた。2時間とかざら。→ 1時間で廃棄するようなものなら、急速静注だろう。 → 選択肢 3 で「持続的な投与」が可能 としている記述と矛盾する。」 と考えると、選択肢 2 か 3 のどちらかが誤りであると考えられます。

これに加えて、アルプロスタジルアルファデクスの特徴として「用法の一つとして、動脈内投与を行う」注射剤であることがあげられます。これは選択肢 3 と符号します。従って、誤りの選択肢は 2 であるのではないか と判断できるとよいかと思います。

選択肢 3 ~ 5 は、正しい選択肢です。

以上より、正解は 2 です。

問197

選択肢 1 ですが
澄明(ちょうめい)である とは、澄みきっているということです。脂肪製剤で乳化した薬は白色など有色で、しかも濁っています。アルプロスタジル注射液も澄明とはいえないだろうと考えられます。(実際、白色 乳濁液 です。)よって、選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 ですが
一般に注射液は、凍結を避けて保存します。よって、選択肢 2 は誤りです。

選択肢 3 は、正しい選択肢です。
ちなみに、ブドウ糖注射液との配合変化が問題となるのはアンピシリンなどです。(還元されて分解が促進されてしまいます。)

選択肢 4 ですが
特に、脂溶性の高い薬剤使用では、ポリ塩化ビニル製の輸液チューブに使用される可塑剤である DEHP の溶出が懸念されます。※ DEHP:フタル酸ビス(2 – エチルヘキシル)※ 可塑剤:柔軟性や変形しやすさ を与えるため加える物質

よって、DEHP フリーの輸液チューブの使用が望ましいとされています。ポリ塩化ビニル製の輸液チューブを用いる必要があるわけでは、ありません。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 は、正しい選択肢です。

以上より、正解は 3,5 です。

問198

この解説では、α – シクロデキストリン を「α」、プロスタグランジン を「PG」、包摂体を「Housetutai」 と、略します。モル比 1 : 1 で包摂される、という記述から「α + PE ⇄ Housetutai」 と表せます。それぞれの濃度を[α]、[PE]、[Housetutai] とすると、平衡定数 K は

です。平衡時の、それぞれの物質の濃度を考えると「65 % の PE が解離していた」という記述から、[PE] が、56.4 × 0.65 = 36.66です。

選択肢をざっと見ると2 桁目までが重要なので、3 桁目で四捨五入して[PE] ≒ 37 とします。解離していた[PE]が 37 だから、包摂体となった分は 56.4 – 37 = 19.4 ≒ 20 (計算が簡単になるからここでは 3 桁目を切り上げました。)次に、[α] ですが、685 – 20 = 665 です。最後に、[Housetutai] は 20 です。以上より、K は

です。正確に計算をしてもいいのですが、本番では思い切って665→650、37→40 と
近似するとよいのではないかと思います。すると約分ができて、1/1300 ≒ 7.8 × 10-4 です。分母をかなり大きくしていることを考慮して(665 × 37 を、650 × 40 としている。)7.8 → 8 ぐらい と考えると、選択肢から始めの数字としては、8.1 が近いので、正解は 1 か 4 とわかります。

後は単位合わせです。分母に単位 nmol/mL が残っているのですが、n mol / mL = μmol / L (分母・分子を 1000倍) です。μ も 平衡定数の単位には残っていないので、μ は、10-6 になおします。

分母には単位だけが残っているのですが、それでは少しわかりにくいので「1× u mol/L」 と考えます。すると、K は 以下のように表すことができます。(以下の式は「式1 を計算して、単位を残したもの」 であり、式1 と同じものを違う表現をしていると考えればよいです。)

分母・分子に 106 を掛ける と、8 × 102 です。

以上より、正解は 1 です。

問199

公式に代入していくのですが、単位に注意します。 J = N・m  は知っている前提となります。J が仕事の単位であり、仕事は、力 × 距離 であることから思い出すとよいかもしれません。

界面張力の所には、問題文からきっと 25 (mJ/m2) を入れるんだろうな、と読みます。ただし
正解の選択肢に 「m(ミリ)」がないから、m は、10-3 に直しておいて、25 × 10-3 (N・m)/m2 であり、更に m(メートル) が1つ約分できるので、25 × 10-3 N/m として代入します。

液滴の半径は、直径が問題文から 120 nm とあるので、60 nm です。先ほどと同様に正解の選択肢に「n」 がないから、n は、10-9 に直しておき、60 nm = 6.0 × 10-8 として代入します。すると

となり、計算すると大体 8.3 × 105 となるので、正解は 4 です。

ちなみに、N/m2 = Pa です。

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