公務員試験 H30年 法務省専門職員 No.15解説

 問 題     

家族支援に関する記述として最も妥当なのはどれか。

1.問題を抱えた家族においては,物事への否定的な捉え方が硬直し,その意味付けによって問題がこじれ,その状態が維持されている場合がある。そこで,硬直した否定的な意味付けに対し,支援者が新しい肯定的な意味付けを行うことで新しい動きが導かれ,より健康的なメカニズムが生まれ,事態が打開することがある。この技法はパラドックス技法と呼ばれ,否定的な表現を肯定的な表現に言い換えることである。

2.家族システム論によれば,夫婦などのカップルは,親密な関係における相互作用を通して,それぞれに規定された役割を演じるようになるのであり,ドメスティック・バイオレンスの問題も夫婦の相互作用の過程で形成され,「暴力を振るう側」と「暴力を振るわれる側」という相補的な役割関係が形成され維持される。したがって,当事者双方の合意に基づく解決が必要であり,それを支援するために,夫婦合同面接を行わなければならないという考えが一般的である。

3.困難な生活歴を持つ人々は,支援者との関わりを望んでいないことがあり,中には支援を受けることに否定的な場合もある。このような人々への支援に当たっては関係作りが課題となり,ジョイニングの技法が特に重要となる。これは,支援者が家族システムに参入することを目的として,家族成員全員の信頼を得るために積極的に自己開示する技法である。

4.レジリエンス(resilience)とは,危機や逆境を経験しても,それに耐えてなお立ち直り,回復する力のことである。レジリエンスは,当初は個人内の資質として捉えられることが多かったが,その関係的側面が注目されるようになり,家族レジリエンスという概念も生まれている。家族支援において,その家族が本来持っているレジリエンスを発揮させることが重要であると考えられている。

5.家族の発達過程を理解する視点の一つに家族ライフサイクルがある。各段階には発達課題があり,例えば,幼い子供を育てる段階では,夫婦は子育てや家事における課題に直面する。夫婦のみの力で課題を乗り越えることができないと,夫婦としてのきずなが弱まったり,親役割を受け入れられなかったりして不適切な養育につながることから,この課題に取り組むに当たって,夫婦は周囲に支援を求めるべきではないとされている。

 

 

 

 

 

正解 (4)

 解 説     

選択肢1ですが
「パラドックス技法」とは「問題行動を維持・強化させる」という技法です。例えばゲームばかりして勉強しない子どもに両親がいつも怒っていて、全体がギスギスしている場合に、あえてゲームをもっとさせるよう両親に勧めさせるといった方法です。「否定的な表現を肯定的な表現に言い換えること」ではありません。選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 ですが
システムは、相互に影響を及ぼしあう要素から構成される、まとまりや仕組みの全体のことです。システムとして見るのであれば、一部が変化することで、その変化を受けた全体の変化が期待されます。「双方の合意に基づく解決が必要であり…夫婦合同面接を行わなければならない」というわけではないと考えられます。選択肢 2 は誤りです。

選択肢 3 ですが
ジョイニングとは、家族療法などにおいて、主に関係づくりのため、セラピストが家族の独特の文化に溶け込んでいくことです。具体的技法として、伴走、調節、模倣などがあります。セラピストが「積極的に自己開示する技法」ではありません。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 は妥当です。
レジリエンスについての記述です。

選択肢 5 ですが
「周囲に支援を求めるべきではない」という部分に違和感を覚えるのではないでしょうか。家族だけの問題として閉じこもりがちであるからこそ、周囲の支援を適切に求めるべきであると考えられます。選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 4 です。

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