公務員試験 H30年 国家一般職(行政) No.30解説

 問 題     

次の文章は,ある最高裁判所決定の一部を要約したものである。下線部 ⑴ 〜 ⑸ に関するア〜オの記述のうち,妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。

相続人が数人ある場合,各共同相続人は,⑴相続開始の時から被相続人の権利義務を承継するが,相続開始とともに共同相続人の共有に属することとなる相続財産については,相続分に応じた共有関係の解消をする手続を経ることとなる。

そして,⑵この場合の共有が基本的には民法第249 条以下に規定する共有と性質を異にするものではないとはいえ,この共有関係を協議によらずに解消するには,特別に設けられた裁判手続である遺産分割審判によるべきものとされており,また,その手続において基準となる相続分は,特別受益等を考慮して定められる⑶具体的相続分である。

このように,遺産分割の仕組みは,⑷被相続人の権利義務の承継に当たり共同相続人間の実質的公平を図ることを旨とするものであることから,一般的には,遺産分割においては被相続人の財産をできる限り幅広く対象とすることが望ましく,また,遺産分割手続を行う実務上の観点からは,⑸現金のように,評価についての不確定要素が少なく,具体的な遺産分割の方法を定めるに当たっての調整に資する財産を遺産分割の対象とすることに対する要請も広く存在することがうかがわれる。

ア.⑴ について,相続は,被相続人の死亡によって開始する。この死亡には,失踪宣告がなされた場合も含まれる。

イ.⑵ の見解に立つと,相続財産の共有を「合有」と解する見解に比べて,相続財産中の個々の財産に対する持分の処分を制限的に解することになる。

ウ.被相続人が負っていた可分債務のうち一身専属的でないものについては,共同相続人は,法定相続分によって分割承継するのではなく,⑶ によって分割承継するのが原則であるとするのが判例である。

エ.⑷ と関連して,寄与分制度が設けられている。これは,被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者に対して,その寄与分を与えるものであり,共同相続人以外の者の寄与分はその者の ⑶ となり,共同相続人の寄与分はその者の ⑶ の算定に当たり考慮される。

オ.⑸ について,共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となるとするのが判例である。

1.ア,イ
2.ア,オ
3.イ,ウ
4.ウ,エ
5.エ,オ

 

 

 

 

 

正解 (2)

 解 説     

記述 ア は妥当です。
相続は被相続人の死亡により開始し、この死亡には、失踪宣告がなされる場合も含まれます。

記述 イ ですが
「合有」は、持分についての権利を単独で行使できません。(2) の見解とは、相続財産の共有を「共有」と考える見解です。共有であれば、持分についての権利を単独行使できます。従って、「合有」と解する見解の方が、相続財産中の個々の財産に対する持分の処分について制限的に解されることになります。記述 イ は誤りです。

記述 ウ ですが
被相続人が負っていた可分債務のうち一身専属的でないものについては、法定相続分によって分割承継されます。法定相続分と異なる負担割合を遺言や遺産分割で決めた場合、相続人間では有効ですが、債権者は応じる義務はありません。

記述 エ ですが
寄与分制度は、改正前民法において、相続人のみが対象の制度でした。そのため、共同相続人以外の者の寄与分はありません。ちなみに、民法改正により、親族のための「特別寄与制度」ができました。相続人以外の親族により、無償で被相続人に対して療養看護その他の労務を提供し、労務の提供によって被相続人の財産が維持または増加することが要件とされています。記述 エ は誤りです。

記述 オ は妥当です。

以上より、正解は 2 です。

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