公務員試験 H30年 国家一般職(行政) No.29解説

 問 題     

不法行為の使用者責任に関する ア〜オ の記述のうち,判例に照らし,妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。ただし,自動車損害賠償保障法については考慮する必要はない。

ア.兄Aが,その出先から自宅に連絡して弟BにA所有の自動車で迎えに来させた上,Bに自動車の運転を継続させ,これに同乗して自宅に帰る途中でBが運転を誤りCに損害を生じさせた場合において,Aが同乗中に助手席でBに運転上の指示をしていたなどの事情があるときは,Aは,Cに対して,民法第715 条に基づく損害賠償責任を負う。

イ.大臣秘書官Aが,私用のために国が所有する自動車を職員Bに運転させてこれに乗車していたところ,当該自動車がCの運転する自動車と衝突してCに損害を生じさせた場合には,国は,Cに対して,民法第715 条に基づく損害賠償責任を負わない。

ウ.銀行Aの支店長Bが,会社Cとの間で,Aの内規・慣行に反する取引を行ったところ,Cがその取引によって損害を被った場合において,Bの当該取引行為が,その外形からみて,Aの事業の範囲内に属するものと認められるときであっても,Cが,当該取引行為がBの支店長としての職務権限を逸脱して行われたものであることを知り,又は,重大な過失によりそのことを知らないで,当該取引をしたと認められるときは,Cは,Aに対して,民法第715 条に基づく損害賠償を請求することができない。

エ.会社Aの従業員Bが,一緒に仕事をしていた他の従業員Cとの間で業務の進め方をめぐって言い争った挙げ句,Cに暴行を加えて損害を発生させたとしても,Aは,Cに対して,民法第715 条に基づく損害賠償責任を負わない。

オ.会社Aの従業員Bが,Aの社用車を運転して業務に従事していたところ,Bの過失によりCの車に追突して損害を生じさせたため,AがCに対して修理費を支払った場合には,Aは,自らに過失がないときに限り,Bに対してその全額を求償することができる。

1.ア,ウ
2.ア,エ
3.イ,エ
4.イ,オ
5.ウ,オ

 

 

 

 

 

正解 (1)

 解 説     

記述 ア は妥当です。
交通事故と兄弟間の使用者・被用者関係に関する 最判 S56.11.27 の通りです。兄と弟の間に事故当時、兄を車で自宅に送り届けるという仕事について、民法 715 条 1 項の使用者・被用者の関係が成立していたとされました。

記述 イ ですが
私用のため、とはいえ、行為の外形からみて被用者の職務の範囲内の行為に属するといえます。従って、国の使用者責任が認められます。記述 イ は誤りです。

記述 ウ は妥当です。
被用者の職務権限内において適法に行なわれたものでない行為についての被害者の悪意・重過失と民法第 715 条 に関する 最判 S 42.11.2 の通りです。

記述 エ ですが
上水道管敷設工事に従事中の人が「鋸(のこ)を貸してくれ」と声をかけたら、声をかけた相手方が鋸を投げて渡してきたことをきっかけに暴行がおきた事案の裁判を念頭においた記述です。

その裁判において「・・・損害は、会社の事業の執行行為を契機とし、これと密接な関連を有すると認められる行為によつて加えたものであるから、これを民法七一五条一項に照らすと、被用者であるAが・・・事業の執行につき加えた損害に当たるというべきである。」と判示しています。従って、本問事例において、会社 A は損害賠償責任を負います。記述 エ は誤りです。

記述 オ ですが
民法 715 条第 3 項に基づく、使用者の被用者に対する求償権に関する 最判 S 51.7.8 によれば、「信義則上相当な額」を限度とした求償が可能です。A 自らに過失がなかったとしても、全額の求償ができるとは限りません。記述 オ は誤りです。

以上より、正解は 1 です。

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