公務員試験 H30年 国家一般職(行政) No.28解説

 問 題     

賃貸借に関する ア〜オ の記述のうち,妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。ただし,争いのあるものは判例の見解による。

ア.不動産の賃借人は,賃借権に基づいて,賃貸人に対して当然にその登記を請求する権利を有する。

イ.賃貸借契約の解除をした場合には,その解除は契約締結時に遡ってその効力を生ずるが,解除以前に生じた損害賠償請求権は消滅しない。

ウ.建物の賃借人が有益費を支出した後,建物の所有権譲渡により賃貸人が交替した場合には,特段の事情のない限り,新賃貸人が当該有益費の償還義務を承継し,旧賃貸人は償還義務を負わない。

エ.貸主Aが借主Bとの間で建物の賃貸借契約を締結し,更にBがAの同意を得てCとの間で当該建物の転貸借契約を締結した場合において,AB間の賃貸借契約がBの債務不履行を原因として解除により終了したときであっても,AはCに当該建物の返還を請求することはできない。

オ.AがBに対して建物所有を目的として土地を賃貸しており,その契約中にBがAの承諾を得ずに借地内の建物の増改築をするときはAは催告を要せずに契約の解除ができる旨の特約があるにもかかわらず,BがAの承諾を得ずに建物の増改築をした場合において,当該増改築が借地人の土地の通常の利用上相当であり,土地賃貸人に著しい影響を及ぼさないため,賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りないときは,Aは当該特約に基づき解除権を行使することができない。

1.ア,イ
2.ア,ウ
3.イ,エ
4.ウ,オ
5.エ,オ

 

 

 

 

 

正解 (4)

 解 説     

記述 ア ですが
建物賃貸借は、登記を経由なくとも、建物の引渡しを受けることで対抗要件具備されます。(借地借家法第31条1項)。賃借権に登記請求権が認められていないからといって、格別不利益ありません。このような背景の下、賃借権に基づき、当然に登記請求権があるわけではありません。記述 ア は誤りです。

記述 イ ですが
民法第 620 条より、賃貸借の解除をした場合には、その解除は、将来に向かってのみその効力を生じます。また、この場合においては、損害賠償の請求を妨げません。「解除は契約締結時に遡ってその効力を生ずる」わけではありません。記述 イ は誤りです。

記述 ウ は妥当です。

記述 エ ですが
改正民法第 613 条 3 項但し書きより、「賃借人が適法に賃借物を転貸した場合には、賃貸人は、賃借人との間の賃貸借を合意により解除したことをもって転借人に対抗することができない。ただし、その解除の当時、賃貸人が賃借人の債務不履行による解除権を有していたときは、この限りでない。」とあります。つまり、賃借人の債務不履行が原因として解除により終了したときは、A は転借人である C に解除をもって建物返還請求できます。記述 エ は誤りです。

記述 オ は妥当な記述です。

以上より、正解は 4 です。

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