公務員試験 H30年 国家一般職(行政) No.24解説

 問 題     

留置権に関する ア〜オ の記述のうち,判例に照らし,妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。

ア.AがBに土地を売却して引き渡したが,その登記がされないうちに,AがCに当該土地を二重に売却し,Cが登記をした場合において,Cが当該土地を占有するBに対して土地明渡請求をしたときは,Bは,Aに対して有する当該土地の売買契約の不履行に基づく損害賠償請求権を被担保債権として,Cに対し,留置権を行使することができる。

イ.AがBに土地を売却し,Bが,Aに代金を支払わないうちに,Cに当該土地を転売した場合において,Cが当該土地を占有するAに対して土地明渡請求をしたときは,Aは,Bに対する代金債権を被担保債権として,Cに対し,留置権を行使することができる。

ウ.建物の賃借人が,賃貸借契約の終了時に,賃借中に支出した必要費若しくは有益費の償還請求権を被担保債権として,建物について留置権を行使したときは,特段の事情のない限り,その償還を受けるまで従前のとおり建物に居住することができる。

エ.AがBから宅地造成工事を請け負い,工事が完了した土地を順次Bに引き渡した場合において,Aが,Bの工事代金の未払を理由に残りの土地について留置権を行使するときは,特段の事情のない限り,被担保債権の範囲は,工事代金のうち,工事を請け負った土地全体に占める未だ引き渡していない土地の面積の割合に相当する部分に限られる。

オ.建物の賃借人Aが,債務不履行により賃貸人Bから賃貸借契約を解除された後,権原のないことを知りながら不法に建物を占有していた場合であっても,建物を不法に占有する間に有益費を支出していたときは,Aは,有益費の償還請求権を被担保債権として,Bに対し,留置権を行使することができる。

1.ア,イ
2.ア,ウ
3.イ,ウ
4.イ,オ
5.エ,オ

 

 

 

 

 

正解 (3)

 解 説     

記述 ア ですが
不動産の二重売買と留置権成否に関する 最判 S43.11.21 によれば、対抗問題のレベルで敗れた者が、債務不履行に基づく損害賠償請求権を理由として留置権主張した場合に、その主張を認めていません。つまり、B は C に対し、留置権を行使できません。記述 ア は誤りです。

記述 イ は妥当です。

記述 ウ は妥当です。
判例によれば、建物の賃借人が支出した必要費や有益費の償還請求権は、民法第 295 条の「その物に関して生じた債権」です。従って、債権の弁済を受けるまで、従前のとおり建物に居住できます。

記述 エ ですが
一部引渡済みの土地に関する留置権の担保する債権の範囲と不可分性の原則に関する 最小判 H3.7.16 によれば、被担保債権の範囲は、特別な事情がない限り、未払い工事代金全部です。例えば、工事代金が 2000 万円だけど、90 % 引き渡してたら、残りの 10% に対応する 200 万円分しか被担保債権とならず、留置権を行使できるのもその範囲だけだ、と仮定してみます。すると、たった200 万円の支払いで留置権はなくなり、未払い 2000 万円のうちの残金 1800 万円を取返すことが難しくなってしまうということになります。工事業者にあまりにも酷な結論であり、判決は妥当と感じるのではないでしょうか。記述 エ は誤りです。

記述 オ ですが
「建物の賃借人がお金払わない」 → 「債務不履行なんでもう貸さないと伝えた」 → 「行くところないからといって出ていかないが、もともと空いていた壁の修理代を払った」 というケースで、壁の修理代を払わないと出ていかないからね、と言って留置権行使できるか、という問題です。これを許しちゃうと、貸し手に酷と判断できるのではないでしょうか。ちなみに判例 最判 S 46.7.16 によれば、民法 295 条 2 項の類推適用により、留置権が主張できない とされています。記述 オ は誤りです。

以上より、正解は 3 です。

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