問 題
所有権の取得に関する ア〜オ の記述のうち,判例に照らし,妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。
ア.同じ内容の物権は,一つの物の上に一つしか成立しないことから,不動産登記法に基づき登記された一筆の土地について,その一部の譲渡を受けた場合,譲受人は,分筆登記の手続を経ない限り,当該土地の一部について所有権を取得することはできない。
イ.所有権について取得時効が成立するためには,占有の目的物が他人の物であることを要することから,自己の所有権に基づいて不動産を占有する者が,当該不動産について取得時効を援用することは許されない。
ウ.AがBに不動産甲を譲渡し,登記を経ないうちに,Aが甲を背信的悪意者Cに二重に譲渡し,更にCから甲を譲り受けたDが登記を経由した場合,Dは,Bに対する関係でD自身が背信的悪意者と評価されない限り,Bに対し,甲の所有権の取得を対抗することができる。
エ.占有者は,所有の意思をもって,善意で,平穏に,かつ,公然と占有することが法律上推定されることから,Aが無権利者Bから取引行為によって動産甲を取得して占有を始めた場合において,Aが甲についての即時取得を主張するときは,Bが権利者であると信じたことにつき過失がなかったことを立証すれば足りる。
オ.道路運送車両法による登録を受けている自動車は,登録がその所有権の得喪の公示方法とされているため,即時取得により所有権を取得することはできないが,同法による登録を受けていない自動車については,即時取得により所有権を取得することができる。
1.ア,イ
2.ア,ウ
3.イ,エ
4.ウ,オ
5.エ,オ
解 説
記述 ア ですが
大審院 T13.10.7 の判例によれば、「一筆の土地の一部」は所有権の対象となります。登記の有無は、第三者対抗要件としては必要ですが、「登記の手続きを経ない限り、所有権取得できない」わけではありません。記述 アは誤りです。
記述 イ ですが
自己所有物の時効取得に関する 最判 S42.7.21 の判例によれば、自己の所有権に基づき不動産を占有する者が、当該不動産について取得時効を援用することは認められています。親戚から不動産を購入し、代金支払、引渡しまで終わっているが、「親戚だし登記は今度やっとけばいいか・・・」と考えてたら数十年経過 → 親戚が「あっ、登記まだ自分だ。売れば儲かる♪」という事例の裁判でした。記述 イ は誤りです。
記述 ウ は妥当です。
背信的悪意者からの転得者に関する 最判 H8.10.29 の判例によれば、転得者が、二重譲渡を受けた者との関係で背信的悪意者と評価されなければ、「第三者」にあたります。従って、B は D に対し、所有権の取得を対抗できません。逆にいえば、D は B に対し、所有権の取得を対抗できます。
記述 エ ですが
即時取得に関する民法第 192 条は、「取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。」です。そして、占有の態様等の推定に関する民法第 186 条により、善意、平穏、公然が推定されます。さらに、最判 S41.6.9 によれば 、民法第 188 条により無過失も推定され、無過失に関する立証責任ないとされています。記述 エ は誤りです。
記述 オ は妥当です。
以上より、正解は 4 です。
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