公務員試験 H30年 国家一般職(行政) No.15解説

 問 題     

条例に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。

1.地方公共団体は,その区域内における当該地方公共団体の役務の提供等を受ける個人又は法人に対して国とは別途に課税権の主体となることまで憲法上予定されているものではないが,法律の範囲内で条例を制定することができるものとされていることなどに照らすと,地方公共団体が法律の範囲内で課税権を行使することは妨げられないとするのが判例である。

2.財産権の内容については,法律により統一的に規制しようとするのが憲法第29 条第2 項の趣旨であるから,条例による財産権の規制は,法律の個別具体的な委任がある場合を除き,許されないと一般に解されている。

3.憲法第31 条は必ずしも刑罰が全て法律そのもので定められなければならないとするものではなく,法律の委任によってそれ以下の法令で定めることもできるが,条例によって刑罰を定める場合には,その委任は,政令への罰則の委任の場合と同程度に個別具体的なものでなければならないとするのが判例である。

4.憲法が各地方公共団体の条例制定権を認める以上,地域によって差別を生ずることは当然に予期されることであるから,かかる差別は憲法が自ら容認するところであり,したがって,地方公共団体が売春の取締りについて各別に条例を制定する結果,その取扱いに差別を生ずることがあっても,憲法第14 条に違反しないとするのが判例である。

5.ある事項について規律する国の法令が既にある場合,法令とは別の目的に基づいて,法令の定める規制よりも厳しい規制を条例で定めることができるが,法令と同一の目的に基づいて,法令の定める規制よりも厳しい規制を条例で定めることは,国の法令の趣旨にかかわらず,許されないとするのが判例である。

 

 

 

 

 

正解 (4)

 解 説     

選択肢 1 ですが
最判 H25.3.21 によれば、「普通地方公共団体は,地方自治の本旨に従い,その財産を管理し,事務を処理し,及び行政を執行する権能を有する(憲法 第 92,94 条)」→「地方自治の不可欠の要素として,その区域内における当該普通地方公共団体の役務の提供等を受ける個人又は法人に対して国とは別途に課税権の主体となることが憲法上予定されているものと解される。」と判示しています。「国とは別途に課税権の主体となることまで憲法上予定されているものではない」わけではありません。選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 ですが
奈良県ため池条例事件の判例によれば「財産権の内容は公共の福祉に適合するようなものであるべきで、憲法二九条二項はまさにこの理を明文化したものにほかならない」とされています。「財産権の内容については,法律により統一的に規制しようとするのが憲法第29 条第2 項の趣旨である」というのは妥当ではないと考えられます。選択肢 2 は誤りです。

選択肢 3 ですが
大阪市売春取締条例事件の判例によれば、条例で罰則を制定する際の法律の委任の程度は「法律の授権が相当程度に具体的であり、限定されていれば足りる」とされています。「政令への罰則の委任の場合と同程度に個別具体的なものでなければならない」というわけではありません。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 は妥当です。
最大判S33.10.15 の内容です。憲法が各地方公共団体の条例制定権を認めている→地方公共団体に違いがあるのは当たり前→憲法が違いを容認していると考えるのが妥当、という流れです。

選択肢 5 ですが
既にある法令以上の厳しい規制を条例で定めることを「上乗せ条例」、同一の目的だが、法令で規制されていない規制を条例で定める「横出し条例」といいます。条例は法令に違反しなければ制定できます。

徳島市公安条例事件の判例によれば、「条例が国の法令に違反するかどうかは・・・それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾牴触があるかどうかによつてこれを決しなければならない」とされています。条例が法令に違反するかどうかは、両者に矛盾抵触があるかどうかで判断する、ということです。従って、同一目的に基づく厳しい規制を条例で定めることも、条例と法令に矛盾抵触がなければ可能であるといえます。選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 4 です。

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