公務員試験 H30年 国家一般職(行政) No.2解説

 問 題     

政治体制に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。

1.R.ダールは,政治体制を構成する原理として「包摂性」と「自由化」を挙げ,この両者が十分に満たされた体制を「ポリアーキー」と呼んだ。ポリアーキーにおいては,自由かつ公正な選挙によって公職者が定期的に選ばれ,市民には表現の自由や結社の自由,情報へのアクセス権などが十分に保障されている。

2.J.リンスは1960 年代,全体主義体制から区別された非民主主義的体制として,「権威主義体制」というタイプが存在すると指摘した。権威主義体制には,限定的多元主義,公式のイデオロギーによる積極的な大衆動員といった特徴がある。権威主義体制の典型的な例としては,ナチス・ドイツやスターリン統治下のソビエト連邦が挙げられる。

3.S.ハンティントンは,歴史上, 3 度の「民主化の波」があったとする。第一の波は,19 世紀から20 世紀初頭にかけて欧州や北米で広がった,参政権拡大などの動きを指す。第二の波は第一次世界大戦後に,敗戦国の民主化がなされたことをいう。第三の波は1950 年代から1960 年代にかけ,植民地の独立に伴って民主主義国が急増した現象を指す。

4.S.リプセットは,政治体制と社会・経済的データの関係について統計的分析を行い,「経済的に豊かな国ほど民主主義体制をとることが少ない」とする知見を得た。彼の説明によれば,経済が発展し教育水準が向上すると,少数派に対する寛容性が失われるなど,市民の権威主義的価値観が強まるため,政治体制の民主化が阻害される。

5.G.オドンネルとP.シュミッターは,国内アクターの選択に注目する従来の議論を批判し,社会経済構造の差異から各国の民主化過程を説明することを試みた。その結果,1970 年代から 1980 年代までの南欧やラテンアメリカにおける多くの事例で,民主化が進展したにもかかわらず政治的自由化が伴っていなかったことを明らかにした。

 

 

 

 

 

正解 (1)

 解 説     

選択肢 1 は妥当です。
ダールのポリアーキーについての記述です。(H28no1)。

選択肢 2 ですが
リンスは、近代政治体制の類型を3つに分類しました。すなわち、民主主義、権威主義、全体主義です。ナチス・ドイツやスターリン統治下のソビエト連邦は、全体主義の例です。権威主義の例ではありません。選択肢 2 は誤りです。

選択肢 3 ですが
第一文、第二文は妥当です。ハンティントンは、民主化の波が歴史上 3 度認めることができると考えました。第一の波は、アメリカ合衆国の独立や、フランス革命などを起点とする、19 ~ 20 C における波です。第一の波が生じた後、20C 前半に、イタリアやドイツでのファシズムによる揺り戻しが到来しました。

第二の波は、第二次世界大戦中から始まったとされています。「第一次世界大戦後に、敗戦国の民主化がなされたこと」ではありません。第 2 の波の反動は、1958年~1975年の間に生起したとされます。また、第三の波の原点について、ハンティントンは 1974 年、ポルトガルのリスボンで起きたクーデターを指摘しています。1990 年代まで続きました。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 ですが
リプセットは、「経済発展が民主化を促進する」と考えました。これをリプセット仮説と呼びます。「経済的に豊かな国ほど民主主義体制をとることが少ない」とする知見を得たわけではありません。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 ですが
オドンネルとシュミッターは、民主主義への移行がどのようなプロセスを経るかという「移行論」を提唱しました。具体的には、実際に民主化に関与する様々な政治アクターの戦略的な相互作用の記述に力点が置かれました。「国内アクターの選択に注目する従来の議論を批判」したわけではありません。選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 1 です。

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