公務員試験 H29年 法務省専門職員 No.27解説

 問 題     

集団内の同調行動の研究に関する記述として最も妥当なのはどれか。

1.シェリフ(Sherif, M., 1936)は,光点の自動運動現象を利用して,実験参加者に,光点が何インチ動いたと思うかを一定時間ごとに繰り返し尋ねる実験を行った。光点を一緒に見た実験参加者たちの回答は,最初は個々に異なる値であったものの,セッションを重ねるうちに一つの値に収しゅう斂れんしていったが,時間が経過して個別に再度判断を求められると,それぞれの最初の値に
戻った。

2.アッシュ(Asch, S. E., 1951)は,線分の長さの判断という課題を用いて,斉一性による同調圧力についての実験を行った。この実験では,実験参加者( 1 人)以外は明白な誤答をするサクラであった。そのサクラの数が3 人, 4 人, 8 人,12 人と増えるにつれて同調率は上昇し続けたが,サクラのうち1 人でも正答を答えると,同調率は急激に下がった。

3.ドイッチュとジェラード(Deutsch, M. & Gerard, H. B.)は,社会的影響には,他者の判断や意見を判断事象についての参考資料として受け入れる情報的影響(informational social influence)と,他者や集団からの期待を考慮して同調する規範的影響(normative social influence)の二つがあるとした。

4.モスコビッチら(Moscovici, S. et al., 1969)は,「ブルー/グリーンパラダイム」と称される一連の実験を行って,少数者による社会的な影響について調べた。この実験では,行動の一貫性にかかわらず,少数者の存在そのものが周りの多数者の判断に大きな影響を及ぼすとされた。

5.チャルディーニ(Cialdini, R. B.)らは,社会的規範を命令的規範(injunctive norm)と記述的規範(descriptive norm)に分けた。例えば,お年寄りや体の不自由な人に席を譲るというのは記述的規範であるが,お年寄りや体の不自由な人がいても周りの誰もが素知らぬ顔で席に座っていれば,席を譲らないというのが命令的規範となる。

 

 

 

 

 

正解 (3)

 解 説     

選択肢 1 ですが
シェリフの光点の自動運動に関する実験です。この実験では、集団内で答えが一つに収斂していった後に、時間経過後、個別に再度判断を求められても、最初の値には戻らず、集団内で収斂した値を答える傾向が見られました個人の規範が集団の規範の影響を強く受けることを示唆する結果です。「個別に再度判断を求められると、それぞれ最初の値に戻った」わけではありません。選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 ですが
アッシュの同調実験です。サクラの人数はある程度で同調率が頭打ちになります。「・・・同調率は上昇し続けたが」という部分が妥当ではありません。ちなみに、サクラのうち1人でも正答を言うと同調率が下がるという部分は妥当です。選択肢 2 は誤りです。

選択肢 3 は妥当です。
ドイッチュとジェラードの社会的影響の分類についてです。

選択肢 4 ですが
モスコビッチらの「ブルー/グリーンパラダイム」についてです。少数派の一貫した態度が多数者に及ぼす影響について示した実験です。後の実験から「態度が一貫している」だけでは不十分ではないかと指摘されています。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 ですが
「影響力の武器」などの著者であるチャルディーニについてです。命令的規範と記述的規範についての記述が逆です。選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 3 です。

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