公務員試験 H29年 法務省専門職員 No.2解説

 問 題     

模倣や同調行動に関する記述として最も妥当なのはどれか。

1.模倣とは,広義には他個体と同じような行動をすることを指す。この広義の模倣には,多くの個体が場を共有して同一の行動をするような社会的促進や,他個体の行動に注意が向けられることで,その場面で用いられている物体に対する行動や,その場所での行動の生起頻度が高まる刺激強調・局所強調も含まれる。

2.模倣について,例えば,テレビのリモコンを使ったことがない人が,他者が手が空いているのに足でリモコンを操作してテレビのチャンネルを変えるのを見て,チャンネルを変えるために,足でリモコンを操作するイミテーションと,手で操作するエミュレーションとを分けて考えることがある。チンパンジーは,イミテーションは行うが,エミュレーションは行わない。

3.他者と会話をしているときに,時間経過に伴い,会話者間の行動が連動し,類似化していく現象をシンクロニーという。これは,相手が苦手な人や嫌いな人であるような心理的距離が大きい場合や,恋人や親友のような心理的距離が小さい場合には生じにくく,その中間程度の心理的距離の場合に生じやすいことが示されている。

4.他者の動作や言語を反射的に再現する行為には,相手の身振りやしぐさなどと全く同じ動作をする反響動作や相手の言葉を山びこのように繰り返す反響言語がある。これらは自己の身体と他者の身体についての高度な理解や他者への共感を必要とするため,自閉症スペクトラム障害のある人には困難である。

5.リゾラッティ(Rizzolatti, G.)らは,ヒトの下前頭回と上頭頂葉において,他者の行為を観察しても,自分が同じ行為をしても活動するミラーニューロンを発見した。ミラーニューロンの機能的役割として模倣との関連性があると考えられたが,後にマカクザルの腹側運動前野においてもミラーニューロンが見つかったことから,現在は,他者の意図を理解するような高度な認知能力にはミラーニューロンは関わっていないとされている。

 

 

 

 

 

正解 (1)

 解 説     

選択肢 1 は妥当です。
模倣についての記述です。

選択肢 2 ですが
一文目は妥当です。意図、目的、動作がどれも同じである模倣がイミテーションです。意図、目的をまねるが、達成するための動作が同じかを問わないのがエミュレーションです。チンパンジーはエミュレーションを行い、イミテーションは行わないと考えられています。選択肢 2 は誤りです。

選択肢 3 ですが
シンクロニーは同調と訳されます。一文目は妥当です。シンクロニーが生じやすいのは、心理的距離が小さい場合です。「中間程度の場合に生じやすい」わけではありません。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 ですが
反響動作や反響言語について、一文目は妥当です。反響言語は反響動作の一種であり、自閉症スペクトラム障害の児童の言語獲得期に典型的に見られます。「自閉症スペクトラム障害のある人には困難」という記述は妥当ではありません。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 ですが
ミラーニューロンについて一文目は妥当です。ミラーニューロンが直接観察されたのがマカクザルです。ミラーニューロンは共感能力を司っていると考えられています。「高度な認知能力にはミラーニューロンは関わっていないとされている」という記述は妥当ではないと考えられます。選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 1 です。

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