公務員試験 H29年 国家一般職(行政) No.69解説

 問 題     

生涯学習等に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。

1.P.ラングランらは,UNESCO の成人教育推進国際会議において生涯教育を提唱し,人間の一生を通じて教育の機会を提供すること,人間発達の総合的な統一性という視点から様々な教育を調和させ統合したものにすることなどの目標を掲げた。

2.E.ジェルピは,「リカレント教育」を提唱し,社会人に対する教育の重要性を主張した。彼は,それまでの教育が学校教育に集中して行われてきたことから,社会人に対する教育の機会が確保されていないと指摘し,現代社会においては,企業が中心となって社会人の教育の機会を確保する必要があると主張した。

3.R.M.ハッチンスは,『アメリカの高等教育』を著し,それまでの高等教育が古典的な一般教育を中心としてきたと批判し,職業生活を見据えた専門的な教育を充実させる必要性を論じた。また彼は,それまでの生涯教育論が教育の機会を拡大することに重きが置かれ,教育の目的が軽視されてきたことを批判し,専門的な職業人の育成を教育の目的として掲げた。

4.E.フォールは,UNESCO の教育開発国際委員会において『限界なき学習』を発表し,世界における貧困や環境汚染などの問題に対処するための教育の重要性を指摘した。また彼は,一人一人が社会の問題を自己のものとして捉え,身近なことから取り組む姿勢を身に付けさせる教育を通じて持続可能な社会の創造を担う人材を育てていくべきであると唱えた。

5.P.フレイレは,それまでの教育が児童生徒を対象とする教育である「ペダゴジー」を中心としてきたと批判し,高齢者を対象とする教育である「アンドラゴジー」の重要性を指摘した。彼は特に,若年労働者が減少している先進諸国においては,高齢者の職業能力を開発するための教育を拡充する必要があると唱えた。

 

 

 

 

 

正解 (1)

 解 説     

選択肢 1 は妥当です。
ラングランの提唱した生涯教育についての記述です。

選択肢 2 ですが
E.ジェルピは、UNESCO におけるラングランの後任です。生涯教育の流れを受け継ぎました。「リカレント教育」を提唱した国際機関は OECD です。この部分の知識が曖昧であっても、後半部分の「企業が中心となって社会人の教育の機会を確保する必要がある」という主張に違和感を覚えるのではないでしょうか。リカレント教育は「生涯にわたり、教育と就労を交互に繰り返すことでスキルを高め続ける教育制度のこと」です。企業が中心となってではありません。選択肢 2 は誤りです。

選択肢 3 ですが
R.M.ハッチンスは、1968年に『学習社会論』を刊行しました。また、未来の社会を「余暇社会」と予測し、未来社会では人間らしく生きるための学習を続けることができるようになると考えました。(法務 H26no37)。「アメリカの高等教育」の著者ではありません。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 ですが
「限界なき学習」は、民間シンクタンクであるローマクラブの第6レポートです。著書は J.W.ボトキンです。UNESCO で発表されたものではありません。E.フォールは、1972 (昭和47) 年に UNESCO にフォールレポート を提出しました。教育の到達すべき目標として「完全な人間」 (complete man) の育成を提示し、学習社会の到来を予見し、生涯学習の重要性を指摘しました。(法務 H27no35)。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 ですが
P.フレイレは、教師による一方的な「銀行型教育」を批判しました。また、「エンパワメント」という言葉を生み出したとされます。ペダゴジーは、子ども対象に教えこむ学習です。一方、アンドラゴジーは、大人対象で、適切な援助を通じた自学を促すことです。「高齢者対象」ではありません。M.ノウルズにより成人教育における主要な概念として発展されました。フレイレが重要性を指摘したわけではありません。選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 1 です。

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