問 題
注意や認知に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。
1.私たちを取り巻く外界には膨大な刺激が存在しているが,注意を向けて見たり聞いたりすることができるのはその一部に限られるため,注意を向けなかった刺激の存在には気付かないことがある。突然,自動車のヘッドライトに照らされたときに,それまで見えていたものを見失ってしまうことはその一例である。このように,刺激が変化した際にその存在を見失う現象を変化の見落とし(change blindness)と呼ぶ。
2.カラーインクで書かれた文字のインクの色名を答える課題では,赤いインクで書かれた「青」という文字のように,インクの色名と文字の意味が異なるとき,色名を答えるのが遅くなったり,色名ではなく文字を読み上げたりすることがある。このような現象はストループ効果と呼ばれ,長年の経験を通じて高度に自動化された文字情報の処理が,インクの色名の処理を妨害することを示している。
3.多数の赤い円の中から,その中に一つだけ紛れている青い円を探したり,一つだけ紛れている赤い四角形を探したりすることは容易である。探す対象となっている目標刺激(ターゲット)が即座に目に飛び込んでくるように見えることから,このような現象はポップアップ効果と呼ばれ,色や形などの特徴の違いが焦点的(集中的)な注意の働きによって抽出されることを示している。
4.計算問題を解きながら,聴覚的に提示される文章を記憶するなど,同時に二つの異なる課題を行うことは一般に困難である。しかし,二つの課題の片方について繰り返し練習を行うことにより,二つの課題を同時に行うときの両方の成績が向上する。これは,練習を積んだ課題に対してより多くの注意が向けられるようになり,もう一方の課題に対して注意が向けられなくなったことを示している。
5.文字列の中から特定の文字を認識する課題において,単語の中に含まれている文字(例:「WORD」の中の「D」)を認識する方が,非単語(無意味つづり)の中に含まれている文字(例:「ORWD」の中の「D」)を認識するよりも容易に行うことができる。これは単語優位性効果と呼ばれ,単語に関する知識に基づいて入力された文字が処理されるボトムアップの情報処理の流れを示している。
解 説
選択肢 1 ですが
「変化の見落とし (change blindness)」とは、十分認知可能と思われる物理的変化を与えているにも関わらず、驚くほど認知遂行成績が悪くなる現象です。「バスケットボールのパス回数を数えて」という指示を与えて動画を見せると、ゆっくり通り過ぎるゴリラに多くの人が気づかない、という例が知られています。(「見えないゴリラ」の実験は、2004 年イグノーベル賞受賞しました。)。「ヘッドライトに照らされたときに、見えていたものを見失う」という例は妥当ではありません。選択肢 1 は誤りです。
選択肢 2 は妥当です。
ストループ効果についての記述です。
選択肢 3 ですが
ポップアウト効果(ポップアップ効果という記述も、ウェブ上で見られました。)についての記述です。前半の内容は妥当です。後半ですが、「特徴の違いが焦点的(集中的)な注意の働きによって抽出される」のであれば、一つだけ紛れているものに注意が働かないと特徴の違いが抽出されないはずです。しかし実際には、探す対象が即座に目に飛び込んでくるように見えます。従って、選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4 ですが
練習を積んだ課題を、あまり注意を向けずに遂行できるようになることで、もう1つの課題に「より注意を向けることができる」ようになると考えられます。「練習を積んだ課題に対してより多くの注意が向けられるようになる」わけではありません。選択肢 4 は誤りです。
選択肢 5 ですが
前半の単語優位性効果についての記述は妥当です。後半ですが、単語の知識に基づき文字が処理されるのだから、単語→文字 という流れです。これは「トップダウン」の情報処理の流れを示しています。ボトムアップの情報処理とは、文字→単語 という流れです。選択肢 5 は誤りです。
以上より、正解は 2 です。
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