問 題
国際関係の理論に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。
1.J.ナイは,国際関係でパワーが論じられるときには,軍事的手段や経済的手段などを用いて他の主体の行動に直接的に作用するパワーに加えて,文化的手段を説得・感化に用いて他の主体の行動に間接的に作用するハード・パワーがあるとした。
2.国益を追求する諸国家間の力の関係に着目して国際関係を捉える見方を,一般に現実主義(リアリズム)と呼ぶ。人間の性向に着目する K.ウォルツの現実主義や,国際システムを重視する H.モーゲンソーの構造的現実主義(ネオリアリズム)等がある。
3.1969 年の著作『危機の二十年』で,H.キッシンジャーは,19 世紀以来の自由主義思想を国際政治に適用しようとする考え方に対して,世論と規範意識によって国際平和が達成されると信じる立場は国際政治の権力的要素を無視していると批判し,現実主義の必要性を説いた。
4.国際関係における行為主体は,物質的であると同時に規範的な構造の中に埋め込まれており,社会における相互行為を通じて形成された間主観的な理解を共有していることを強調する学派は,理想主義と呼ばれる。
5.英国学派とは,諸国家が持つ共通の制度や規則の存在に着目し,アナーキー(無政府状態)なものではあるが社会としての性格も持つ国際社会の存在を論じ,その制度や歴史に関する研究を発展させたH.ブルらが代表する学派である。
解 説
選択肢 1 ですが
J.ナイ が唱えた、文化的手段を説得・感化に用いて他の主体の行動に間接的に作用するパワーとは「ソフト・パワー」です。ハードパワーとは、経済的インセンティブまたは軍事力を行使し、他のアクターの行動に影響を与える国、または政治団体の能力を指します。選択肢 1 は誤りです。
選択肢 2 ですが
ウォルツが、国際システムを重視する「構造的現実主義(ネオリアリズム)」、モーゲンソーが、人間の性向に着目する「現実主義」です。ウォルツとモーゲンソーが逆です。選択肢 2 は誤りです。(参考 H26 no51)。
選択肢 3 ですが
キッシンジャーと現実主義という対応は妥当です。しかし、「危機の二十年」は、ヨーロッパで第二次大戦が勃発する直前の 1930 年代執筆、第 1 版が戦争勃発直後 1939 年 9 月に刊行された、カーの著書です。選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4 ですが
「間主観性」というキーワードと対応するのは「コンストラクティビズム (構成主義) 」です。間主観性とは、主観がある人だけから自主的、内部的に生まれるのではなく、共同的に影響しあいながら機能するということです。
あくまでもイメージのためのたとえですが、自分が好きな漫画やアニメがあったのに、街で偶然すれ違った人同士の「あのアニメ面白くなかったよなー。」「わかる。あれ好きな人ってなんなんだろうねー。」という会話を耳にした瞬間から、急に冷めてしまう経験 に覚えはないでしょうか。この現象は、「ある人の主観が、別の人の主観に影響を与えている」といえます。
個人間だけでなく、国家間においても同様に考えれば、国際関係における諸問題は「人間の本性や政治の本質的な性質に基づく不可避の帰結」といった単独主体に要因があるのではなく、いろんな国家との関わりである 歴史 や 社会 により左右されるものだと主張する主義が「コンストラクティビズム (構成主義) 」です。選択肢 4 は誤りです。
選択肢 5 は妥当です。
国際政治学が「アメリカの社会科学」と呼ばれていたような時代に、ヨーロッパにおいて独自性を持った研究がなされていました。ヨーロッパ主権国家体制を中心とした歴史的分析を通じた国際政治の構造的特徴をつかもうとしたのが特徴である英国学派についての記述です。英国学派の代表作が H.ブルの「国際社会論」です。
以上より、正解は 5 です。
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