公務員試験 H29年 国家一般職(行政) No.19解説

 問 題     

訴えの利益に関するア〜オの記述のうち,判例に照らし,妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。

ア.自動車運転免許の効力停止処分を受けた者は,免許の効力停止期間を経過し,かつ,当該処分の日から無違反・無処分で1 年を経過し,当該処分を理由に道路交通法上不利益を被るおそれがなくなったとしても,当該処分の記載のある免許証を所持することにより,名誉,信用等を損なう可能性があることから,当該処分の取消しによって回復すべき法律上の利益を有する。

イ.町営の土地改良事業の施行認可処分の取消訴訟において,当該認可処分が取り消された場合に,当該事業施行地域を当該事業施行以前の原状に回復することが,当該訴訟係属中に当該事業計画に係る工事及び換地処分が全て完了したため,社会的,経済的損失の観点からみて,社会通念上不可能であるとしても,当該認可処分の取消しを求める訴えの利益は消滅しない。

ウ.建築基準法による建築確認の取消訴訟において,建築確認を受けた建築物の建築が完了した場合であっても,建築確認が違法を理由に取り消されれば,特定行政庁は違反是正命令を発すべき法的義務を負うことになるから,当該建築確認の取消しを求める訴えの利益は消滅しない。

エ.免職処分を受けた公務員は,当該処分の取消訴訟係属中に公職の候補者として届出をしたため,当該処分がなくとも法律上その職を辞したものとみなされる場合であっても,給料請求権など回復すべき権利,利益があるときは,当該処分の取消しを求める訴えの利益がある。

オ.保安林の指定解除処分によって当該保安林の存在による洪水や渇水の防止上の利益が侵害される場合に,代替施設の設置によっても,あらゆる科学的検証の結果に照らして洪水等の危険がないと確実に断定することができず,洪水等の危険性が社会通念上なくなったと認められるにすぎないときは,当該処分の取消しを求める訴えの利益は消滅しない。

1.ア,イ
2.ア,ウ
3.イ,エ
4.ウ,オ
5.エ,オ

 

 

 

 

 

正解 (3)

 解 説     

記述 ア ですが
最判 S55.11.25 によれば、自動車運転免許の効力停止処分を受け、効力停止期間を経過し、処分の日から 無違反・無処分で 1 年経過したときは、処分の取消しにより回復すべき法律上の利益を有しません。記述 ア は誤りです。

記述 イ、ウですが
記述 イ は妥当です。ウ は誤りです。これらの事例はまとめて覚えておくとよいと思います。記述 イ の「土地改良事業の施工認可処分」については、認可あっての換地処分であるから、認可が取消されれば、当然換地処分も法的効果を受ける。だから、原状回復が不可能としても、そういった事情は判決で考慮されるべきであり、訴えの利益は消滅しないと判示されました。(最判 H4.1.24)。

一方、建築確認の取消しを求める訴え(最判 S59.10.26) や、都市計画法 29 条の開発許可の取消訴訟 (最判 H5.9.10) や、森林法の林地開発許可の取消訴訟 (最判 H7.11.9) については、工事完了に伴い訴えの利益が消滅するとされています。原処分の性質を考慮した判決となっています。

記述 エ は妥当です。
免職処分を受けた公務員が取消訴訟係属中に、公職候補者として届出を行い、当該処分がなくても辞職とみなされる場合であっても、なお、訴えの利益を有します。(最判 S40.4.28)。

記述 オ ですが
長沼ナイキ基地訴訟(最判 S57.9.9) によれば、代替施設の設置により、洪水、渇水の危険が解消された場合において、訴えの利益は失われます。記述 オ は誤りです。

以上より、正解は 3 です。
取消訴訟について 類題 H26 no17

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