問 題
民主主義に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。
1.プラトンは,市民全員が直接政治的意思決定に関わり,徹底的な平等を志向する古代アテネの民主政治を理想とした。民主政治の下では,民衆は自らの欲求や自由を保障してくれる支配者を望むようになるが,平等な民衆が合議を尽くすことによって,民衆の心を掌握する独裁者が生まれやすい状況を排除できると指摘した。
2.J.マディソンは,連邦派の立場から,広大な領土においては,一つの支配的な派閥ができにくいため少数者の権利が侵害される可能性が低くなると主張した。さらに,政府を個々の独立した部署に分割することで,政府による人民の自由の侵害は生じないと主張し,アメリカ合衆国憲法案では,立法府・行政府・司法府の間に厳格な権力分立が導入された。
3.A.ド・トクヴィルは,デモクラシーにおいては,多数者の専制をもたらす危険が内在することを指摘した。また,自由の原理とデモクラシーの原理が両立する条件として,人々が優れた少数者の知性と判断による指導を自ら求めるような体制を挙げ,人々の政治参加をもたらす多元的・分権的な社会を否定し,その著書である『代議制統治論』で当時の米国のデモクラシーを批判した。
4.19 世紀末から20 世紀初頭にかけて,産業化に伴う生活水準の向上,普通選挙権の拡大等により,教養と財産をもつ多数の「大衆」が登場し,彼らによる理性的・合理的で自由な議論が活発に行われ,政治や社会問題に対して的確な判断がなされた。このような状況からエリートへの期待は低下し,V.パレートらは反エリート論を主張した。
5.J.ハーバーマスは,多様な市民が政治社会の共通の事項について論じる場を公共的領域と呼び,それは私的領域や経済活動を主な目的とする社会的領域より価値が高く,質的に異なると考えた。そして,近代以降,私的領域・社会的領域により公共的領域が侵食され,古代ギリシアのポリスで行われたような対等な市民同士の言葉のやり取りを通じた活動の可能性が狭められたと批判した。
解 説
選択肢 1 ですが
ソクラテスの弟子であるプラトンは「哲人政治」を主張しました。師匠が民主派政権により、民主政に有害だとされて殺されたので、優れた人が政治すべきと考えました。「徹底的な平等を志向する古代アテネの民主政治を理想とした」わけではありません。選択肢 1 は誤りです。
選択肢 2 は妥当です。
J.マディソンはアメリカ合衆国憲法の父と呼ばれます。
選択肢 3 ですが
一文目は妥当です。トクヴィルは、アメリカ視察で進んだ民主主義に驚くと共に、専制にならないために、多様な少数意見の表現が重要(多元主義)と「アメリカのデモクラシー」で述べています。(H26no2)。「多元的・分権的な社会を否定」してはいません。また「代議制統治論」は、ミルの著書です。選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4 ですが
パレートは「エリートの周遊」理論を提唱しました。エリートの周流とは、政治上のエリートには2タイプ(きつね型、ライオン型)いて、交互の支配が循環し、政治的安定を果たすという理論です。(H27no1)。反エリート論を主張したわけではありません。選択肢 4 は誤りです。
選択肢 5 ですが
ハーバーマスは「公共圏を取り戻し、対話的理性の重要性を訴えた」人です。(H26no2)。「公共的領域が、私的領域、社会的領域より価値が高く、質的に異なる」といった主張ではありません。また、「公共圏」ではなく「公共的領域」になっています。妥当ではないと考えられます。選択肢 5 は誤りです。
以上より、正解は 2 です。
コメント