公務員試験 H28年 国家一般職(農学) No.22解説

 問 題     

植物育種の基礎的事項に関する記述として最も妥当なのはどれか。

1.配偶子形成時に起きる減数分裂には,第一分裂と第二分裂がある。第一分裂では両親由来の相同染色体が娘細胞に分配され,第二分裂では各染色体の姉妹染色分体が分離する。染色体の乗換えが起きるのは,第一分裂である。

2.細胞質雄性不稔性の植物では,胚のう形成過程で機能不全が生じる。細胞質雄性不稔系統に対し,ミトコンドリアに稔性回復遺伝子を持つ系統を花粉親として交雑させることで,子実生産能を持った一代雑種品種(F1 品種)ができる。

3.QTL 解析は,草丈や花色などの量的形質に関与する遺伝子の数や各遺伝子の発現量の推定を行う手法である。DNA マーカーの共通性でまとめた個体群の間で形質の比較を行い,統計的有意差がない場合は,そのDNA マーカーとQTL が連鎖していると判定する。

4.準同質遺伝子系統群(NILs*1)は,比較的遠縁の親どうしを交雑後に自殖を繰り返して作成され,ゲノム全体のDNA マーカー地図作成に用いられる。組換え近交系(RILs*2)は,連続戻し交雑で作成され,高精度な遺伝子マッピングや有用遺伝子の集積に利用される。

5.イチゴやレタスのような他殖性作物では,ある遺伝子のヘテロ接合体の頻度が世代を経るごとに減少する。一方,イネやトウモロコシのような自殖性作物では,集団の大きさが十分ならば,理論的には遺伝子型頻度が不変であり,ヘテロ接合体の頻度も減少しない。
*1 NILs:near-isogenic lines
*2 RILs:recombinant inbred lines

 

 

 

 

 

正解 (1)

 解 説     

選択肢 1 は妥当な記述です。

選択肢 2 ですが
核遺伝子と、ミトコンドリア遺伝子(=細胞質遺伝子)があり、「細胞質雄性不稔性」なら、その細胞の「ミトコンドリア遺伝子」が、不稔性をもたらす ということです。そして、ミトコンドリア遺伝子は「原則全て母系遺伝」します。よって、稔性回復遺伝子を持つ系統を花粉親(つまり雄)として交雑させても、その遺伝子は次世代には受け継がれません。つまり、稔性が再生することはありません。よって、選択肢 2 は誤りです。

選択肢 3 ですが
統計的有意差がなかったのであれば、そのDNAマーカーの付近には、量的形質に関与する遺伝子がない→マーカーと連鎖して「いない」と考えられます。よって、選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 ですが
「準同質遺伝子系統群」とは、特定の目的形質以外は、基本的に反復親系統と同じ形質を示す系統のことです。戻し交配した後、分子マーカー選抜で育成されます。組換え近交系は、F2 世代の個体別に、何代も自殖を続けて得られる系統群のことです。よって、選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 ですが
レタス、イネは自殖性です。トウモロコシは他殖性です。自殖性では、集団の大きさが十分な場合、理論的にはヘテロ頻度は低下していきます。(AAからは、AAしか、aa からは aa しかできない。で、Aa からは AA,Aa,aa ができて、Aa は半分に減っちゃうから。)よって、選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 1 です。

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