公務員試験 H28年 法務省専門職員 No.16解説

 問 題     

行動療法,認知療法又は認知行動療法に関する記述として最も妥当なのはどれか。

1.行動療法は,問題行動あるいは不適応行動の発生メカニズムやその行動修正法について,学習という視点から治療理論や治療技法を構築するべき,といった考え方に基づいて発展してきた心理療法である。この療法では,客観性と普遍性を強く指向しながらも,精神力動的な治療法を始めとした他の心理療法と同程度にクライエントの個別性を重視している点に特徴がある。

2.認知療法は,認知を変え,また認知プロセスを変えることにより,既にある障害や,想定されている障害を修正しようとする心理療法である。認知療法の本質は,クライエントの認知のゆがみの是正にあり,主として否定的な自動思考やスキーマを治療対象としている。例として,スイン(Suinn, R.M.)の不安管理訓練法や,ネズ(Nezu, A.M.)らの問題解決療法などが挙げられ,いずれも行動療法的介入を行わないことを特徴としている。

3.認知行動療法は,クライエントの行動や情動の問題に加え,認知的な問題も治療の標的とし,行動的技法と認知的技法を効果的に組み合わせて用いることによって,問題の改善を図ろうとする心理療法である。この療法における心理教育では,症状や問題行動そのものを認知・行動論的に説明するとともに,症状や問題行動を認知行動療法ではどのように捉え,どのように扱おうとするのかについて,クライエントの理解を促すことを狙いとしている。

4.合理情動療法は,エリス(Ellis, A.)によって創始され発展してきた心理療法である。この療法では,ABC シェマと呼ばれる理論が用いられており,Aは出来事(activating event),Bは信念(belief),Cは情動的結果(consequence)を指す。情動を場面に応じて合理的に制御する力を身に付けさせることを治療の目的としており,主として自律訓練法や筋弛緩法,呼吸法などを基にしたリラクセーション・トレーニングを用いる。

5.認知行動療法は発展し続けており,第3 世代の認知行動療法として,マインドフルネス認知療法や,ヘイズ(Hayes, S.C.)らのアクセプタンス・コミットメント療法といった新しい技法が開発されている。マインドフルネス認知療法は,適応的でない思考や感情の問題を特定して外在化し,それに応じた具体的な認知的・行動的対処スキルを短期間で集中して身に付けさせることで,それらの問題を早期に克服できるようにさせることを特徴としている。

 

 

 

 

 

正解 (3)

 解 説     

選択肢 1 ですが
前半部分は妥当な記述です。しかし、後半部分について、精神力動的、つまり来談者の心に焦点を当てるのではなく、客観的に測定可能な「行動」に焦点を当てるという点に特徴があります。「他の心理療法と同程度に・・・個別性を重視」ではないと考えられます。選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 ですが
スインの不安管理訓練法や、ネズらの問題解決療法は、認知的過程に行動療法の考え方を適用することによる認知行動療法の一種です。「行動療法的介入を行わない」という記述は妥当ではありません。選択肢 2 は誤りです。

選択肢 3 は妥当です。
認知行動療法についての記述です。

選択肢 4 ですが
エリスの合理情動療法は「感情と行動が、出来事自体から生じるのではなく、出来事の解釈、認知のあり方によって変化する」という考えが元である療法です。「場面に応じて合理的に『情動を制御』」するのではなく、場面に応じた「合理的信念の獲得」を目指します。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 ですが
マインドフルネス認知療法は「今、ここの自分に集中し、ただ観察し、受け入れる」という療法です。「問題特定、外在化→対応スキル獲得」といった療法ではありません。

以上より、正解は 3 です。

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