公務員試験 H28年 法務省専門職員 No.12解説

 問 題     

犯罪・非行学説に関する記述として最も妥当なのはどれか。

1.マートン(Merton, R.K.)は,アノミー理論を提唱し,限りある物質的資源や制度化されたパワーをめぐって集団間には不可避的に対立が生ずるところ,優勢な集団は自己の利益にかなうように法を作り,自己のパワーを維持するためにそれを施行するが,こうした法が作られることによってまた犯罪も作られるとした。すなわち,法とは優勢な集団が他集団を抑圧・支配するために構築するもので,抑圧された側の行為が犯罪とみなされる。

2.サザランド(Sutherland, E.H.)は,分化的接触理論を提唱し,下層階級の者が社会的地位に対する欲求不満の解決として不満の源泉である中流階級の価値に敵意をもち,それと反対のものを強調する非行副次文化が生まれ,中流階級的生き方を軽蔑する彼らの行動が犯罪となって表れるとした。そのため,中流階級の社会においてよく適応している人は,たとえ近辺に犯罪文化が存在しても,それによって影響を受けることはない。

3.ハーシ(Hirschi, T.)は,社会的絆理論を提唱し,全ての人は非行や犯罪に走る潜在的な可能性を有しているという前提の下,なぜ人は犯罪を行わないのかという視点から,犯罪の抑止要因として社会的絆の存在を主張した。その一つに「愛着」があるが,ハーシは,たとえ非行仲間に対して愛着を形成している青少年においても,非行仲間同士の結び付きは,健全な友人同士の結び付きに比べて弱いことを指摘した。

4.コーニッシュとクラーク(Cornish, D.B. & Clarke, R.V.)は,合理的選択理論を提唱し,犯罪行為を,犯罪者に利益をもたらす意図で行われる計画的な行為とみた上で,犯罪者は犯罪によって得られる利益とコストとを天秤に掛けて彼らなりに合理的に判断しているとした。この理論では,犯罪者の判断は主観的で,犯罪者に特有のものであり,本人の思考パターンを変えない限り再犯は防げないと考えられている。

5.ロンブローゾ(Lombroso, C.)は,刑務所の犯罪者を対象に,人類学的な計測・調査を行い,犯罪者に特異な特徴として,頭の大きさや形の異常など類人猿に似た原始人の特徴を示し,犯罪者とは,人類の進化過程において初期の段階にとどまっている隔世遺伝者であるとする生来性犯罪者説を提唱した。ゴーリング(Goring, C.)が英国の刑務所で行った大規模な研究においても,犯罪者と非犯罪者の身体的特徴が異なることが示された。

 

 

 

 

 

正解 (3)

 解 説     

選択肢 1 ですが
マートンのアノミー論は「文化的目標と、達成のための制度的手段にギャップがある時、アノミー(無規範状態、無規則状態)が生じる」と考えました。緊張理論とも呼ばれます。法のような「犯すと逸脱」となる規則、が周囲から適用されてアウトサイダーであるというラベリングが行われることにより逸脱が生み出される という考え方は「ベッカーのラベリング論」です。選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 ですが
サザランドの分化的接触理論は、犯罪や非行行動は、親密な周囲の人々との相互作用を通じて学習されるという理論です。中流を否定して非行カルチャーが生まれると考えたのは「コーエンの非行サブカルチャー理論」です。選択肢 2 は誤りです。

選択肢 3 は妥当です。
ハーシの社会的絆(ボンド)理論です。統制理論とも呼ばれます。

選択肢 4 ですが
コーニッシュとクラークの合理的選択理論です。前半の記述は妥当です。環境犯罪学の理論の1つであり、犯罪者の判断が「環境由来」であるという考え方です。従って、犯罪のコストやリスクを増やし、犯罪の機会を与える状況を改善することで、再犯を防げると考えられます。「思考パターンを変えない限り」ではありません。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 ですが
ロンブローゾは、犯罪学の父とも呼ばれ、とりわけ「遺伝的要因」が犯罪の発生に大きな影響を与えると考えました(参考 H27no57)。一方、ゴーリングは、ロンブローゾの説を「さすがにそれはないだろう」と統計学的に否定しようとした人です。身体的特徴に有意差はないと示しました。「・・・大規模な研究においても・・・身体的特徴が異なることが示された」わけではありません。選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 3 です。

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