公務員試験 H28年 法務省専門職員 No.2解説

 問 題     

日常記憶研究に関する記述として最も妥当なのはどれか。

1.日常記憶とは,日常場面における記憶の様々な現象を扱う研究領域のことをいう。ナイサー (Neisser, U.) が,無意味綴りの記銘再生課題などを典型とする実験室における記憶研究は,生態学的妥当性は高いものの信頼性が低いと批判して以来,日常場面で実際に記憶がどのように機能しているかという観点に基づいた研究が盛んに行われるようになった。

2.人は,個人的な過去経験を想起するとき,約 3 歳以前に経験した出来事はほとんど思い出すことができず, 3 〜5 歳に経験した出来事はいくつか思い出すことができるものの,内容は断片的である。このように,幼い頃に経験した出来事を想起できないことを幼児期健忘という。その説明として,幼児期の経験の抑圧,符号化方略の乏しさ,神経発達の未熟さなどの原因が挙げられている。

3.デジャビュは,初めて訪れた場所や初めて見た物に対して,強い既知感とともに懐かしさを感じる記憶現象である。一方,初対面の人に対して同様のことを感じる記憶現象は,ジャメビュと呼ばれる。これらはいずれも,過去の経験を正確に想起できない一種の記憶錯誤であると考えられている。

4.展望的記憶は,未来に行うことを意図した行為の記憶を意味し,以前に行ったことを思い出す過去の記憶である宣言的記憶と対比される。「帰り掛けに葉書を投函する」といった自分自身にとっての予定や,「3 時に友達と待ち合わせる」といった他人との約束などが展望的記憶の例である。

5.実験室的研究では,主として「頭の中だけで」行う記憶操作を検討してきた。これに対して,日常記憶研究では,記憶する際に周囲にあるメモ,地図,絵表示,タイマーといった事物など,記憶を補助する外部環境の役割についても積極的に検討されている。ただし,記憶はあくまでも個人のものとされ,他者の役割については検討の対象とはされていない。

 

 

 

 

 

正解 (2)

 解 説     

選択肢 1 ですが
ナイサーの「生態学的妥当性」とは、「人の日常行動と関連する意味をもつか」という点を重視、評価しようとする考え方です。無意味綴りを用いた実験で「測定」される認知的処理能力は、実際に人が生活の中で見せる「意味のある認知対象」に対する認知的な処理と直接的関連性が低く、生態学的妥当性が低いとされます。「生態学的妥当性は高いものの」という記述は不適切です。選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 は妥当な記述です。
幼児期健忘についてです。

選択肢 3 ですが
デジャビュの反対がジャメビュです。ジャメビュは、見慣れている道、風景といった「既知」を未知と感じるという現象です。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 ですが
展望的記憶については、その通りの記述です。必要なタイミングで、必要な内容を想起しなければならないという特徴があります。宣言的記憶とは、意識的に議論したり宣言したりすることができる記憶のことです。その中でも過去の出来事についての記憶は「エピソード記憶」と呼ばれます。「過去の記憶である宣言的記憶」という記述は妥当ではありません。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 ですが
「実験室的研究では・・・、日常記憶研究では・・・外部環境の役割についても積極的に検討されている」という部分について、実験室的研究でも、外部環境の役割について検討されていたのでは?と感じるのではないでしょうか。さらに「記憶はあくまでも・・・、他者の役割については検討の対象とはされていない。」とありますが、例えば展望的記憶について「誰かの顔を見て、これからやることを思い出す」といった事例を考えれば、検討対象となっていてもおかしくないと判断できるのではないでしょうか。選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 2 です。

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