公務員試験 H28年 国家一般職(行政) No.59解説

 問 題     

逸脱に関する社会学理論についての次の記述のうち,妥当なのはどれか。

1.T.ハーシは,『アウトサイダーズ』を著した。彼は,個人が,これを犯せば逸脱となるような独自の規則を設け,その規則を自ら破ることで,自らにアウトサイダーのラベルを貼ることによって,逸脱をする者としてのアイデンティティを獲得することを明らかにした。

2.E.H.サザーランドは,分化的接触理論の提唱者である。彼は,犯罪行動が,パーソナルな集団における他の人々との相互作用を通じて学習された行動であり,遵法的文化から隔絶され,犯罪的文化に接触することから犯罪行動は学習されるとした。

3.E.ゴフマンは,『社会病理学』を著した。彼は,逸脱行動には,行為者が自分に対するイメージを変えようとすることから生ずる第一次逸脱と,状況的逸脱要因などの逸脱への圧力から生ずる第二次逸脱があるとした。

4.H.S.ベッカーは,統制理論の提唱者である。彼の非行に関する統制理論では,少年が非行化するのは,警察,地域社会における大人等による,地域社会の治安を維持する力である社会的絆が弱まることが原因であるとされた。

5.E.M.レマートは,『スティグマの社会学』を著した。彼は,スティグマとは,ある社会における好ましい特徴のことであり,スティグマをもっていないと周囲に判断された者は,その者の危険性や劣等性が説明され,様々な差別を受けることを明らかにした。

 

 

 

 

 

正解 (2)

 解 説     

選択肢 1 ですが
ハーシ(Hirschi, T.)は,社会的絆理論を提唱し,全ての人は非行や犯罪に走る潜在的な可能性を有しているという前提の下,なぜ人は犯罪を行わないのかという視点から,犯罪の抑止要因として社会的絆の存在を主張しました。『アウトサイダーズ』の著者であり、ラベリング論を提唱したのは、ベッカーです。選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 は妥当です。
サザランド分化的接触理論は、犯罪や非行行動は、親密な周囲の人々との相互作用を通じて学習されるという理論です。

選択肢 3 ですが
第一次逸脱とは、誰でも行いうるちょっとした逸脱です。第二次逸脱は、「逸脱者」というラベルを貼られ、その役割を遂行することです。ラベリング論の基となった、レマートが提唱した概念です。ゴフマンは、人の行為を演劇と考え、ドラマトゥルギーという用語を用いました。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 ですが
ハーシ(Hirschi, T.)の提唱した「社会的絆理論」が、統制理論とも呼ばれます。ベッカーはラベリング論の提唱者です。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 ですが
スティグマとは「通常その人が求められる属性から逸脱した属性」のことです。「ある社会における好ましい特徴」ではありません。また、『スティグマの社会学』の著者はゴフマンです。選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 2 です。

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