公務員試験 H28年 国家一般職(行政) No.26解説

 問 題     

債務不履行による損害賠償に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。ただし,争いのあるものは判例の見解による。

1.損害が債務者の帰責事由だけではなく,債権者の過失も原因となって発生した場合には,発生した損害の全てを債務者に負担させることは公平に反するため,裁判所は,債権者の過失に応じて損害賠償額を減額することができるが,債務者の責任全てを免れさせることはできない。

2.債務不履行による損害賠償の方法には,金銭賠償と原状回復とがある。金銭賠償とは金銭を支払うことによって損害が発生しなかった状態を回復するものであり,原状回復とは債務者が自ら又は他人をして現実に損害を回復するものであり,損害賠償の方法としては,金銭賠償が原則である。

3.債務者が,その債務の履行が不能となったのと同一の原因により債務の目的物の代償である利益を取得した場合には,その利益を債務者に享受させることは公平に反するため,債権者は,その受けた損害の額の限度を超えても,債務者に対し,その利益全ての償還を請求することができる。

4.債権者と債務者との間であらかじめ違約金を定めておいた場合には,その違約金は原則として債務不履行に対する制裁であるため,債務者は,債権者に対し,現実に発生した損害賠償額に加えて違約金を支払わなければならない。

5.債務不履行により債権者が損害を被った場合には,債務不履行による損害賠償の範囲は,債務不履行がなければ生じなかった損害全てに及び,特別な事情による損害も,通常生ずべき損害と同様に,損害賠償の対象となる。

 

 

 

 

 

正解 (2)

 解 説     

選択肢 1 ですが
民法第 418 条により、裁判所は債権者の過失を考慮し、損害賠償の「責任及びその額」を定めます。これにより、損害賠償の責任を免れさせることもできると考えられます。選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 は妥当です。
損害賠償は、別段の意思表示がなければ、金銭賠償です。民法第 417 条です。

改正ポイント!選択肢 3 ですが
本試験時点において、判例(最判S 41.12.23)によれば、「・・・債権者が蒙りたる損害の限度において、その利益の償還を請求する権利を認めるのが相当」とあります。「利益全て」ではありません。民法改正により、第 422 条の 2 が新設され、代償請求権が明文化されました。チェックしておきましょう!

選択肢 4 ですが
民法第 420 条 第 3 項により、違約金は賠償額の予定と推定されます。従って、「損害賠償額に加えて違約金を仕払う」わけではありません。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 ですが
民法第 416 条 第1 項により、「債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的」とします。そして、第 2 項により、「特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができ」ます。従って、特別損害については、通常損害とは異なり、事情を予見すべきでない場合は損害賠償対象となりません。選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 2 です。

コメント