公務員試験 H27年 法務省専門職員 No.12解説

 問 題     

環境に着目した防犯心理学に関する記述として最も妥当なのはどれか。

1. 環境設計による犯罪防止 (CPTED:Crime Prevention Through Environmental Design) の考え方の源流の一つとして、 1961 年にジェイコブス (Jacobs, J.) が『アメリカ大都市の生と死』で提唱した「自然監視性 (natural surveillance) 」の概念が挙げられる。自然監視とは、住人、通行人,店員など公共の目による街への自然な注目と防犯活動のことである。

2. 防犯のための環境設計においては、私的空間又は準私的空間と公共空間とを明確に区別し、そこが侵入を許されない空間であることを犯罪者に分からせる必要があるが、高低差をつけたり芝生を植えたりするだけでは侵入防止の効果はなく、高い塀やなどの見た目にはっきりと分かる物理的障壁を設置する必要がある。

3. ウィルソンとケリング (Wilson, J. Q. & Kelling, G. L.) が提示した「割れ窓理論」は、ニューヨーク市における、犯罪・非行は容赦なく徹底的に取り締まるべきであるというジュリアーニ (Giuliani, R. W.) 市長時代のゼロ・トレランス政策に取り入れられた。この理論では、地域を守るのは住人ではなく、警察をはじめとする行政機関であるという姿勢を強く打ち出している。

4. 「割れ窓理論」は、住居の窓ガラスを防犯ガラスにする、ドアに解錠しにくい高性能の鍵を付ける、電子的なセキュリティシステムを導入するなどして、犯罪の対象となる場所や物自体の防御力を強化することにより、犯罪の遂行にかかるコストを上げることを目指したものである。また,その波及効果として、一般市民の防犯意識を高めることが認められている。

5. 小宮信夫は、小学校等での犯罪被害防止教育において、犯罪被害に遭う危険性の高い場所について認識する必要があるという観点から、「地域安全マップ」を生徒たち自身の手で作ることを提唱した。「地域安全マップ」作りは、犯罪が起きたことのある場所や不審者が目撃された場所を地図上にプロットした上で、そこを実際に訪れ、その特徴を覚えることが中心となる。

 

 

 

 

 

正解 (1)

 解 説     

選択肢 1 は妥当な記述です。
防犯環境設計は、直接的手法として「被害対象の回避・強化」、「接近の制御」、間接的手法として「自然監視性の確保」、「領域性の確保」があります。これらを組み合わせて実施することが大切とされます。

選択肢 2 ですが
高低差や芝生は心理的障壁としての効果が期待されると考えられます。「侵入防止の効果はなく」という記述は言い過ぎと判断できるのではないでしょうか。選択肢 2 は誤りです。

選択肢 3,4 ですが
割れ窓理論は「軽微な犯罪を徹底的に取り締まることで、凶悪犯罪を含めた犯罪を抑止できるとする環境犯罪学上の理論」です。一見無害であったり、軽微な秩序違反行為でも取り締まることの意義を示しています。

選択肢 3 の「地域を守るのは・・・警察をはじめとする行政機関である」という記述は妥当ではありません。地域住民がボランティアでパトロールをするといった対策も、この理論は支持すると考えられます。

また、選択肢 4 の「犯罪遂行にかかるコストを上げることを目指した」という記述は妥当ではありません。軽微な犯罪が徹底的に取り締まられたからといって、犯罪遂行のコストは変化しないと考えられます。選択肢 3,4 は誤りです。

選択肢 5 ですが
地域安全マップ作りは「入りやすい、見えにくい」という「ものさし」で地域の中で危険性の高い場所を探すというものです。「実際に犯罪が起きたことのある場所・・・を実際に訪れ・・・」という活動ではありません。選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 1 です。

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