公務員試験 H27年 法務省専門職員 No.4解説

 問 題     

情動(感情)に関する記述として最も妥当なのはどれか。

1. ジェームズ (James, W.) は、情動の生起するプロセスについて、まず情動を喚起する刺激状況の知覚が生じ、その刺激に対する末梢神経系の反応が身体的・生理的変化につながり、さらにこの変化が視床下部にフィードバックされて、そこで初めて情動体験が生じると仮定した。こうした考え方は、同時期にランゲ (Lange, C.) によっても主張された。

2. キャノンとバード (Cannon, W. B. & Bard, P.) は、情動の中枢は大脳皮質であり、環境からの刺激に対する心臓の動悸や筋肉の緊張といった身体反応が、大脳皮質にフィードバックされて情動が生じると主張した。この理論では、人には、ある身体反応が起きたときに、それによって生じた情動を弁別するため、各情動に固有の神経反応パターンがあるとされている。

3. パペッツ (Papez, J. W.) は、特定の表情筋の組合せによる表情パターンが即座に脳にフィードバックされ、その情報が海馬や視床下部からなる回路に入り、そこで情動体験が生じると仮定した。この一連の経路は、パペッツの情動回路と呼ばれている。

4. マクリーン (MacLean, P. D.) は、感情の生起には特定の人や状況関係に対する認知的評価が先行し、その評価の違いによって各種感情経験に差が生じると主張した。彼の考え方は、認知的評価、感情、感情に対する反応といった三つの過程を重視していることから、三位一体説と呼ばれている。

5. ルドゥー (LeDoux, J. E.) は、扁桃体を破壊したラットには恐怖条件づけがなされないことを明らかにし、扁桃体を中心に据えた恐怖条件づけモデルを提唱した。このモデルは、、感情の処理経路が二つあるとする点が特徴的であり、一つは直接扁桃体へ至るルート、もう一つは新皮質を媒介し扁桃体へ至るルートとされている。

 

 

 

 

 

正解 (5)

 解 説     

選択肢 1 ですが
「知覚→身体的・生理的変化→視床下部にフィードバックされて、初めて情動体験が生じる」という流れは「中枢説」です。キャノンとバードにより提唱されました。選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 ですが
「身体反応が、大脳皮質にフィードバックされて情動が生じる」という流れは「抹消説」です。ジェームズ・ランゲが唱えました。選択肢 2 は誤りです。

選択肢 3 ですが
「表情パターンが即座に脳にフィードバックされ・・・情動体験が生じる」というのは、トムキンスの仮説です。パペッツは、キャノンとバードの中枢説を受け、視床下部だけでなく、視床下部を含むより広い『情動回路』を提唱しました。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 ですが
「認知的評価が先行し、その評価の違いにより・・・差が生じる」という前半の記述から、この説は「認知的評価を重視している」と読み取れます。後半の「認知的評価、感情、感情に対する反応といった三つの仮定を重視」ではないと判断できます。この選択肢は知識不要、文章理解的な問題です。認知的要因を重視したのは ラザルス、フォルクマンです。ストレスに関する認知の重要性について指摘した人です。

ちなみに
マクリーンの三位一体説という、人名と用語対応はあっています。三位一体説とは、ヒトの脳がおおよそ3層構造で、進化に従い爬虫類由来、下等哺乳類由来、高等哺乳類以降からそれぞれ受け継いだ構造を有するという仮説です。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 は妥当な記述です。

以上より、正解は 5 です。

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