公務員試験 H27年 国家一般職(行政) No.3解説

 問 題     

我が国の政治思想に関する次の記述のうち、妥当なのはどれか。

1. 福沢諭吉は、西洋の自然法思想を念頭におきつつ天賦人権論を展開し、人間は生まれながらに自由かつ平等であるとした。その上で、一人一人が個人として知識と徳を身につけることが重要であると訴え、他人との交際を重んじるべきではないとした。

2. 吉野作造は、国家の政策は究極的には民衆の意向を反映したものでなければならず、そのためには民意が議会を監督し、議会が政府を監督するような制度が不可欠であるとしたが、この民本主義が大日本帝国憲法を否定する内容であったため厳しく攻撃された。

3. 植木枝盛は、私擬憲法「日本国国憲案」を起草し、徹底した人民主権の立場から人民の抵抗権や革命権を論じ、一院制の議会を提唱したが、選挙の在り方に関する考え方の違いから、彼自身が同時期の自由民権運動に加わることはなかった。

4. 美濃部達吉は、イェリネクに代表されるドイツ国法学を批判し、国家は法人格を有する団体とは異なるとした上で天皇を国家の最高機関として位置付けたが、この天皇機関説は天皇を統治権の主体と考える立場からの強い批判にさらされた。

5. 中江兆民は、ルソーの人民主権論と儒学の教養をもとに、民権運動を擁護した。彼によれば、政治社会とはそこにおいて各人が道義に従って自らを治めるという「自治之政」を行う場であり、人民の参加する憲法制定議会開催が必要であるとされた。

 

 

 

 

 

正解 (5)

 解 説     

選択肢 1 ですが
人は生まれながらに自由平等で幸福追求の権利を持つという思想は「天賦人権思想」です。天賦人権論を紹介したのは「加藤弘之」や「福沢諭吉」です。最後の「他人との交際を重んじるべきではない」という部分ですが、福沢諭吉は「学問のすすめ」で「独立した個人が交流することで社会全体が活発になる」と述べています。これを知らなくても、「自由平等」→「他人と交際を重んじるべきでない」という主張のつながりがおかしく、妥当でないと推測できるのではないでしょうか。選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 ですが
吉野作造は、主権在民でない大日本帝国憲法下における、民衆の政治参加を主張しました。これを民本主義といいます。民主主義は、普通選挙を求める大正デモクラシーへと通じていきます。ちなみに、「民主主義」は主権在民を含む概念であるため、別ものです。「民意による議会の監督」ではありません。また、大日本帝国憲法の「否定」ではありません。選択肢 2 は誤りです。

選択肢 3 ですが
植木枝盛は自由民権運動家です。立志社・自由党で活躍し、「東洋 大日本国国憲按」を起草しました。「彼自身が・・・自由民権運動に加わることはなかった」わけではありません。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 ですが
美濃部達吉は、イェリネクに代表される国家法人説に「依拠し」、天皇機関説を唱えました。「ドイツ法学を批判」したわけではありません。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 は妥当です。
中江兆民についての記述です。

以上より、正解は 5 です。

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