公務員試験 H26年 国家一般職(行政) No.23解説

 問 題     

不動産の物権変動に関するア~エの記述のうち、判例に照らし、妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。

ア. 民法第 96 条第3項が、詐欺による意思表示の取消しは善意の第三者に対抗することができないとするのは、取消しの遡及効を制限する趣旨であり、その「第三者」とは、取消しの遡及効により影響を受けるべき第三者、すなわち取消し後にその行為の効力につき利害関係を有するに至った第三者と解すべきである。したがって、取消し前の不動産に係る権利の得喪変更については、同項ではなく、民法第 177 条が適用され、不動産を売り渡しその所有権を買主に移転した者は、詐欺を理由にその売買契約を取り消した場合でも、登記名義を自己に回復しない限り、取消し前にその不動産の権利を取得した第三者に対し、所有権の復帰を対抗することはできない。

イ. 遺産の分割は、相続開始時に遡ってその効力を生ずるが、第三者に対する関係においては、相続人が相続によりいったん取得した権利について分割時に新たな変更を生ずるのと実質上異ならないものである。したがって、不動産に対する相続人の共有持分の遺産分割による得喪変更については、民法第 177 条の適用があり、分割により相続分と異なる権利を取得した相続人は、その旨の登記を経なければ、分割後にその不動産について権利を取得した第三者に対し、自己の権利の取得を対抗することはできない。

ウ. 不動産物権の存在・変動を公示する登記制度は、不動産に係る実体的な権利関係を正確に表示しその静的安全及び動的安全を保護するためにあるから、不動産の所有権を正当な理由に基づき取得した者においても、実体的な権利変動の過程と異なる移転登記を請求する権利は認められない。したがって、甲乙丙と順に所有権が移転したのに登記名義は依然として甲にあるような場合に、現に所有権を有する丙は、中間省略登記をするについて甲及び乙の同意があるときであっても、甲に対し直接自己に登記を移転すべき旨を請求することは許されない。

エ. 背信的悪意者が民法第 177 条の「第三者」から除外されるのは、第1の譲受人の売買等に遅れて不動産を取得し登記を経由した者が登記を経ていない第1の譲受人に対してその登記の欠缺を主張することがその取得の経緯等に照らし信義則に反して許されないからであり、背信的悪意者である第2の譲受人が不動産を取得する行為は信義則違反として当然無効となる。したがって、所有者甲から乙が不動産を買い受け、その登記が未了の間に、背信的悪意者である丙がその不動産を甲から二重に買い受けて登記を完了した後、さらに丁が丙からその不動産を買い受け登記が丁に移転された場合、丁自身は乙に対する関係で背信的悪意者であると評価されなくとも、丁はその不動産の所有権取得を乙に対抗することはできない。

1. ア
2. イ
3. ア、ウ
4. イ、エ
5. ウ、エ

 

 

 

 

 

正解 (2)

 解 説     

記述 ア ですが
詐欺の事例として、A の持家(5000万の価値)について、B(詐欺者)が「A さんの家、呪われてるから、1000 万で買ってあげますよ」といって AB 間で売買成立し、その後 B(詐欺者)と、ちょうど家が欲しかった C(事情を知らない善意の第三者)の間で売買成立したとします。

民法 96 条 3 項の第三者とは、詐欺による法律関係を前提として法律関係に入った者のことです。取消し後であれば、関係ない人になってしまいます。従って、 96 条 3 項における第三者は「取消し前の第三者」です。「取消し後に・・・利害関係を有するに至った第三者」ではありません。記述 ア は誤りです。ちなみに、取消し後の第三者については、民法 177 条、すなわち登記の有無で処理されます。

記述 イ は妥当です。
民法 909 条により、遺産分割は、第三者の権利を害しません。相続分と異なる権利を取得した相続人は、民法 177 条により、第三者への対抗要件として登記必要です。

記述 ウ ですが
判例 (最判 S40.9.21) に照らすと、利害関係者全員の同意がある場合であれば請求が許されないわけではないと考えられます。記述 ウ は誤りです。※ただし、H16 年不動産登記法改正により、登記原因証明情報の提出が義務化され、事実上中間省略登記は不可能となっています。

記述 エ ですが
判例(最判 H8.10.29) によれば、背信的悪意者からの転得者について、転得者が背信的悪意者でない限りは第三者です。従って、登記が丁にあれば、不動産の所有権取得を乙に対抗できると考えられます。記述 エ は誤りです。

以上より、正解は 2 です。

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