公務員試験 H28年 法務省専門職員 No.5解説

 問 題     

ウィニコット(Winnicott, D.W.)による情緒発達に関する精神分析理論についての記述として最も妥当なのはどれか。

1.彼は,クライン(Klein, M.)の提唱した抑うつ態勢(Depressive Position)の概念に強い影響を受けたが,抑うつ態勢は,クラインの述べるように幼児と母親が共同して作り上げるものではなく,時の経過とともに自然発生的に表れてくるものだとした。

2.彼は,幼児の成熟過程を開花させる発達促進的環境を用意することのできる母親が,ほどよい母親(Good-enough Mother)であり,母性的専心をもって育てることが重要だと説き,こうした母親の在り方をホールディング(Holding)という用語を用いて説明した。

3.彼は,罪悪感は自分が傷つけた対象が自分の愛する対象であったと感じられるようになることで生じる持続的抑うつ感情から生じるものであり,罪悪感をもつことができるようになることを基盤として,他者に思いやりをもつ能力が発達するとした。

4.彼は,ある時期に幼児が分離不安に対する防衛として使用する布切れ,毛布,動物のぬいぐるみなどを移行対象(Transitional Object)と呼び,母親とほどよい関係(Good-enough Relationship)を経験できていない場合によく使用されるとした。

5.彼は,サイコセラピーに当たっては,内的対象関係論を踏まえ,クライエントの表出する無統制な感情をコンテイン(Contain)することによって,クライエントに治癒的体験をさせることを重視し,洞察を志向することなく,専らクライエントの感情の受容に努めることを提唱した。

 

 

 

 

 

正解 (2)

 解 説     

選択肢 1 ですが
ウィニコットは、クラインの提唱した「抑うつ態勢」に移行する移行期についての理論を展開しました。具体的には「ホールディング」→「ほどよい母親」→「移行対象」という概念、流れを考えました。ウィニコットの理論においても、幼児と母親の相互関係が重要と考えられています。「時の経過とともに自然発生的に表れてくる」という記述は妥当ではありません。選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 は妥当です。
産後、母親は原始的没頭状態で乳児が安心できる環境を作り、そのような環境に乳児はホールディングされると考えました。その後没頭からほどよい母親になり、それに伴い乳児は、母親を客観的に理解するようになるという理論です。

選択肢 3 ですが
罪悪感、償い、思いやりといった用語から「抑うつ態勢」に関する記述です。従って、クラインの理論についての記述と考えられます。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 ですが
ウィニコットの理論によれば、母親とのほどよい関係を通じた母子の分離移行を促進するものが移行対象です。「ほどよい関係を経験できていない場合によく使用される」わけではありません。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 ですが
「クライエントの感情の受容に努める」などから、ロジャースの来談者中心的理論を意識した記述と考えられます。選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 2 です。

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