公務員試験 2020年 国家一般職(行政) No.20解説

 問 題     

損失補償に関するア~オの記述のうち,判例に照らし,妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。

ア.主として国の歴史を理解し往時の生活・文化等を知り得るという意味での歴史的・学術的な価値は,特段の事情のない限り,当該土地の不動産としての経済的・財産的価値を何ら高めるものではなく,その市場価格の形成に影響を与えることはないというべきであって,このような意味での文化財的価値なるものは,それ自体経済的評価になじまないものとして,土地収用法上損失補償の対象とはなり得ない。

イ.財産上の犠牲が単に一般的に当然に受忍すべきものとされる制限の範囲を超え,特別の犠牲を課したものである場合であっても,これについて損失補償に関する規定がないときは,当該制限については補償を要しないとする趣旨であることが明らかであるから,直接憲法第29 条第3 項を根拠にして補償請求をすることはできない。

ウ.警察法規が一定の危険物の保管場所等につき保安物件との間に一定の離隔距離を保持すべきことなどを内容とする技術上の基準を定めている場合において,道路工事の施行の結果,警察違反の状態を生じ,危険物保有者がその技術上の基準に適合するように工作物の移転等を余儀なくされ,これによって損失を被ったときは,当該者はその損失の補償を請求することができる。

エ.火災が発生しようとし,又は発生した消防対象物及びこれらのもののある土地について,消防吏員又は消防団員が,消火若しくは延焼の防止又は人命の救助のために必要がある場合において,これを使用し,処分し又はその使用を制限したときは,そのために損害を受けた者があっても,その損失を補償することを要しない。

オ.国家が私人の財産を公共の用に供するには,これによって私人の被るべき損害を填補するに足りるだけの相当な賠償をしなければならないことはいうまでもないが,憲法は,補償の時期については少しも言明していないのであるから,補償が財産の供与と交換的に同時に履行されるべきことについては,憲法の保障するところではない。

1.ア,オ
2.イ,ウ
3.ア,ウ,エ
4.ア,エ,オ
5.イ,ウ,オ

 

 

 

 

 

正解 (4)

 解 説     

記述 ア は妥当です。
最判S63.1.21 によれば、輪中堤に関する事例について、文化財的価値について、経済的価値でない特殊な価値であり、補償対象にならないと判示しています。(H27no20)。

記述 イ ですが
最判 S43.11.27 によれば、損失補償に関する規定がなくても、直接憲法 29 条 3 項を根拠にして、補償請求する余地があります。記述 イ は誤りです。

記述 ウ ですが
最判 S58.2.18 によれば、ガソリンタンクを設置していたところ、国が地下道を設置したことによりガソリンタンクを移設したケースにおいて、被った損失が補償の対象にならないとされました。このケースのような、公共の安全・秩序維持のため必要な警察規制に基づく損失がたまたま現実化するに至ったものにすぎない場合において、損失補償は不要とされています。記述 ウ は誤りです。

記述 エ は妥当です。
消防法第 29 条第 1 項の内容です。この内容は正に「火の元」に対する消防活動に関する記述です。また、第 2 項により、延焼被害が迫っている消防対象物についても、損失補償は不要です。一方、消防法第 29 条第 3 項によれば、1,2 項に該当しない消防対象物について、消火もしくは延焼の防止または人命の救助のために緊急の必要があるときに、これを使用し、処分しまたはその使用を制限した場合は、補償要求がある場合に、時価による補償を認めています

記述 オ は妥当です。
損失補償が財産供与と交換的に同時に履行されるべきことについては、憲法の保障するところではありません。

以上より、正解は 4 です。

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