問 題
政策過程に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。
1.H.サイモンは,人間の認識能力には際限がなく,効用を最大化することを目指すべきであるとして,十分に満足する水準の充足を目指す満足化モデル(satisfying model)を主張し,合理性の限界を考慮することは,「訓練された無能力」であるとして批判した。
2.C.リンドブロムは,政策過程は公共の目的を持っており,個々の立案者たちが共通の目的を持って参画すべきであり,それぞれの利益に基づく考え方は反映すべきではないとする唱道連携フレームワーク(Advocacy Coalition Framework)を提唱した。
3.J.キングダンは,ある政策案が推進される好機が訪れることを,「政策の窓(Policy Window)」が開くという比喩で表現し,「問題」「政策」「政治」という三つの流れとその合流によって,政策過程を説明した。
4.J.マーチらは,政策決定過程では,必要性の高い課題と政策は政策決定の場に残るが,必要性の低い課題と政策はそれらとは区別された上で,不要なものとしてゴミ缶の中に捨てられ,解決すべき課題や政策として取り上げられなくなるとする「ゴミ缶モデル」を提唱した。
5.稟議制は,官僚制組織の意思決定方式の一つであり,辻清明は,最終的に決裁を行う職員が起案文書を作成すること,文書が順次回覧され個別に審議されることなどを特徴として指摘するとともに,これが効率的であるとして,欧米の官僚制組織の意思決定にも広がっていったとした。
解 説
選択肢 1 ですが
「訓練された無能」は、行き過ぎた官僚制の結果陥る、逆機能の1つです。(H29no57)。指摘したのはマートンです。サイモンの満足モデルとは、選択肢の検討が一挙にでなく逐次的に行われ、一応納得できる選択肢が発見された時点で探求は停止されるため、最善の発見にこだわらず、その選択肢で満足するというモデルのことです。(H26no8)。選択肢 1 は誤りです。
選択肢 2 ですが
リンドブロムとくればインクリメンタリズムです。インクリメンタリズムとは、実現可能な三つ程度の選択肢を摘出して比較するにとどめ、短期間での決定を重視することにより、漸進的に政策の変更を繰り返すという政策形成過程のモデルです。(H29no8)。唱導連携フレームワークを提唱したのは、サバティアとジェンキンスミスです。選択肢 2 は誤りです。
選択肢 3 は妥当です。
キングダンの「政策の窓」モデルに関する記述です。このモデルは、マーチらのゴミ箱モデルをベースとした考え方です。
選択肢 4 ですが
コーエン、マーチ、オルセンらのゴミ箱モデルは、目標や因果関係が不明確な「あいまい性」下での意思決定を説明するモデルです。意思決定の要素として 「問題,解,参加者,選択機会」の4つを想定しました。そして、選択機会を「ゴミ箱」にたとえ、そこに問題、解、参加者というゴミが投げいれられ、ある時の結びつきに基づいて意思決定が行われると考えました。問と解が独立しているという点がポイントです。(2019 (R1) no46)。「必要性の低い課題と政策は・・・不要なものとしてゴミ缶の中に捨てられる」というものではありません。選択肢 4 は誤りです。
選択肢 5 ですが
稟議制とは、行政組織の末端の者によって起案された稟議書を順次上位者に回覧し,承認を求め,最終的に決裁者に至る方式です。辻清明は,その効用を,議案の決定過程に関係する全ての組織成員が参加できるため,決定後に関係者からの異議が生じるのを未然に防ぐことにあるとしました。(H30no7)。「最終的に決裁を行う職員が起案文書を作成」ではありません。選択肢 5 は誤りです。
以上より、正解は 3 です。
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