公務員試験 2020年 国家一般職(行政) No.2解説

 問 題     

中間団体に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。

1.G.ヘーゲルは,国家の全体秩序を「国家」「市民社会」「個人」の三つに分け,市民社会を「欲求の体系」「司法活動」「職能団体」の三つから成るものと規定した。市民社会における個人の自由は,職能団体を通じて再編成されるが,こうした中間団体は私的利益のみを組織化するので,公共性を阻害するとした。

2.A.トクヴィルは,米国では陪審制等の政治や司法に直接参加する仕組みが整っていないものの,市民は様々な団体を通じて公的な事柄について参加,学習が可能となっているとした。しかし,団体を通じた政治参加では多数の横暴を抑えられず,米国のデモクラシーは健全に維持されていないと指摘した。

3.R.ダールは,米国政治における利益集団の影響力を分析して,民主政治を「多数者の専制」とみなした。様々な利益集団が日常的に競争して,互いに牽制や調整をしながら政治過程に参入したとしても,政策決定に影響を及ぼすことはできず,多様な意見を政治に反映できないと考えた。

4.P.シュミッターは,オランダなどにおける,宗教や言語が異なる集団間の対立の顕在化を避けるために各々の代表が集まり利害を調整する政治を,「多極共存型デモクラシー」と名付けた。A.レイプハルトは,オーストリアなどにおける,労働者・経営者・政府の代表が協議の場を持ち調整により政策を決める政治を,「ネオ・コーポラティズム」と名付けた。

5.R.パットナムは,イタリアの地方政府の研究を基に,民主的な政府が有効に機能するのに最も影響したのは,中世都市以来の市民的伝統であったと指摘した。市民的伝統を持つ共同体とは,信頼,互酬性の規範,ネットワークといった社会関係資本を蓄積してきた共同体であり,こうした市民社会と組み合わされてこそ,民主的な政府は強化されるとした。

 

 

 

 

 

正解 (5)

 解 説     

中間団体とは、自治都市、ギルド、地区の教会など「国家と個人の中間にある団体」のことです。

選択肢 1 ですが
職能団体は、構成員個人ごとの私的利益だけではなく、他の成員にも配慮をめぐらし、相互に助け合いながら活動します。「私的利益のみを組織化」するわけではありません。これは知識としてではなく、文章を読んで推測できるのではないかと思われます。選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 ですが
トクヴィルは、アメリカ視察で進んだ民主主義に驚くと共に、専制にならないために、多様な少数意見の表現が重要(多元主義)と「アメリカのデモクラシー」で述べています。(H29no1)。「米国のデモクラシーは健全に維持されていないと指摘」したわけではありません。選択肢 2 は誤りです。

選択肢 3 ですが
民主政治を「多数者の専制」と捉え、少数派が尊重されないという問題を提起したのは、トクヴィルやミルです。ダールは、アメリカ社会のケーススタディを通し、エリート論に基づくエリート層による独占は存在せず、権力がさまざまな利益を代表する複数の社会集団間で共有されていると結論づけました。この現実の民主政を、理想の民主政と区別し、ポリアーキーと名付けました。このような利益集団や圧力団体などに注目する議論を多元主義、多元的民主主義論といいます。(H28no1)。 選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 ですが
「多極共存型デモクラシー」とは、ヨーロッパの多元社会で実施されている安定したデモクラシーの一形態です。レイプハルトが、スイスやオランダの事例から名付けました。「ネオ・コーポラティズム」論の代表的論者はシュミッターです。人名が逆です。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 は妥当です。
パットナムは、米国の共同体の衰退を論じました。ソーシャル・キャピタル(社会資本)概念の提唱者です。(H29no2)。

以上より、正解は 5 です。

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