公務員試験 2019年 国家一般職(行政) No.49解説

 問 題     

国際経営に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。

1.海外市場への対応方法として,各国市場の需要状況に合わせた製品を供給する「標準化」と,できる限り共通化された製品を各国に供給する「現地化」の二つがある。C.K.プラハラードらは,前者に関連するグローバル統合の程度と,後者に関連するローカル適応の程度という二軸を用いた枠組みとして I ‒ R グリッドを提唱し,両者ともに高い水準で達成可能な組織を「グローバル型組織」と呼んだ。

2.J.H.ダニングは,多国籍企業が特定の国に対して直接投資を行うための条件として,所有優位性,国際化優位性,立地優位性の三つを挙げ,それぞれの頭文字をとって OLI パラダイムと呼んだ。彼によれば,この三つの条件のいずれか一つが満たされた場合に,多国籍企業は直接投資を行う。

3.国際的な人的資源管理に関しては,海外子会社で採用した現地従業員と本国から派遣される駐在員にどのような権限や役割を与えるのかを決める必要がある。G.ホフステッドはEPRG プロファイルを提唱し,海外子会社の重要なポストの多くが本国からの駐在員によって占められ,本国が海外子会社の主要な意思決定を行うような経営志向を「世界志向型」と定義した。

4.M.E.ポーターは,国の競争優位の決定要因として,「要素条件」,「需要条件」,「関連・支援産業」,「企業戦略と競合関係」,「文化と宗教」の五つを挙げ,これらが相互に影響しあう関係にあると指摘した。これらのうち,「需要条件」とは,労働力やインフラ等の,ある特定の産業で競争するのに必要な資源における国の地位のことである。

5.C.A.バートレットとS.ゴシャールは,多国籍企業の海外子会社の役割を,海外子会社が有する能力やリソースの高低と,現地環境の戦略的重要性の高低の二軸によって,「ブラックホール」,「戦略的リーダー」,「実行者」,「貢献者」の四つに類型化した。そして,企業にとって戦略的に重要なロケーションに位置し,かつ能力やリソースが高い子会社を「戦略的リーダー」とした。

 

 

 

 

 

正解 (5)

 解 説     

選択肢 1 ですが
「標準化」と「現地化」が逆です。選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 ですが
ダニングの OLI パラダイムについての記述です。OLI とは、所有者(ownership)、立地(location)、内部化(internalization) の略です。これら 3 つは、企業が多国籍化しようとする意思決定に際して、その基礎をなす潜在的な優位性の源泉とされます。所有特殊優位、立地特殊的優位、内部化優位の3つの要素をもって検討した時に、それらの3つがすべて企業に備わっている場合には、直接投資をするという判断がなされるとしています。「いずれか 一つが満たされた場合に」ではありません。選択肢 2 は誤りです。

選択肢 3 ですが
EPRG プロファイルを提唱したのは、パールミュッターです。多国籍企業の国際戦略モデルとして四つに類型化(E-P-R-Gプロファイル)しました。

E (Ethnocentric) が本国志向です。経営の意思決定を全て本国で行い、現地ではローカル人材は登用せず、本社がコントロールする志向にある企業のタイプです。P (Polycentric) は現地志向です。現地での意思決定に権限委譲されるタイプです。R (Regiocentric) は地域志向です。アジア圏といった地域単位での意思決定にシフトしたタイプです。G (Geocentric) は世界志向です。グローバルで経営資源を共有し、本国と外国の関連会社は全社的に統合された理想形を現しています。記述は E、本国志向と考えられます。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 ですが
「5 つの要因」という記述から ファイブ・フォースモデルを連想したい記述です。このモデルは、業界分析フレームワーク(考え方の枠組み)の1つです。国の話ではありません。選択肢 4 は誤りです。

ちなみに
ポーターのファイブ・フォースモデルは、新規参入企業、売り手、買い手、代替品、そして競争相手の 五つの競争要因を分析するモデルです。「文化と宗教」といった要因は分析しません。

選択肢 5 は妥当です。
バートレットとゴシャールによる、多国籍企業の海外子会社の役割に関する記述です。

以上より、正解は 5 です。

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