公務員試験 2019年 国家一般職(行政) No.47解説

 問 題     

企業の戦略に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。

1.1960 年代に H.I.アンゾフは,実現された戦略は,①事前に計画された戦略と,②当初は意図されていなかった事象への対応が集積されることにより形成される企業行動の一貫性やパターンである創発的戦略,の二つから構成されると主張し,後者の類型として市場浸透,市場開拓,製品開発の三つがあるとした。

2.R.P.ルメルトが提唱した取引コスト理論によると,ある部品を自社で製造(内製)するのか外部から購入(外注)するのかを決定する際の取引コストは,専ら取引費用という当該部品の購入代金として支払う金額により定まり,情報収集や契約条件などの市場取引に固有のコストは考慮されない。

3.市場の成長の鈍化や縮小が起こる製品ライフサイクルの成熟期では,競合他社は複数存在するため,それまでに獲得した市場シェアを防衛することや,商品力の強化及び差別化を推進して自社製品に対するブランドの評価をより高めることが重点課題となる。

4.1990 年代にハーバード大学が中心となり実施された PIMS 研究の成果によれば,相対的市場シェアが高いほど投資利益率(ROI)が低くなるという関係が示されており,その理由として,市場シェアが高まるほど相対的品質(顧客が知覚する商品品質)が低下してしまうため高水準の価格を維持できなくなることを挙げている。

5.ポジショニング・アプローチの観点から J.B.バーニーが提唱した VRIO フレームワークは,企業に競争優位をもたらす資源の特徴として,①購入価格が高いこと,②稀少であること,③他社による模倣が困難であること,④事業機会に恵まれていること,という四つの条件を挙げた。

 

 

 

 

 

正解 (3)

 解 説     

選択肢 1 ですが
意図された戦略が、アンゾフの戦略経営論です。一方、事前に計画されたものではなく、現場社員の行動によって事後的にパターン化された戦略が、ミンツバーグの創発型戦略論です。アンゾフによって2つとも主張されたわけではありません。選択肢 1 は誤りです。(参考 アンゾフに関して H29no47 選択肢 5)。

選択肢 2 ですが
ロナルド・コースの取引コスト経済学を継承・発展させた、オリバー・ウィリアムソンの取引コスト理論によれば、主な取引コストには、財の交換の機会探索に関する「探索(調査)コスト」、交換の条件に関する「交渉コスト」、契約を合意通りに実施するための「監視コスト」があります。つまり、「情報収集や契約条件などの市場取引固有のコスト」が考慮されています。選択肢 2 は誤りです。

選択肢 3 は妥当です。

製品ライフサイクルにおける成熟期に関する記述です。

選択肢 4 ですが
PIMS(Profit Impact of Market Strategies)は、市場戦略が利益に及ぼす影響を調査しようとしたプログラムです。研究成果によれば、絶対的・相対的マーケット・シェアは、投下資本収益率(ROI)と強い関係になります。つまり、シェアが高いほど収益性が高くなります。「シェアが高いほど、ROI が低くなる」わけではありません。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 ですが
VRIO フレームワーク提唱が バーニーという対応は妥当です。VRIO フレームワークとは、「V:Value(経済的な価値)」、「R:Rareness(希少性)」 、「I:Imitability(模倣可能性)」、「O:Organization(組織)」の 4 つの観点から評価する考え方です。「④事業機会に恵まれていること」が特徴という記述が妥当ではありません。選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 3 です。

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