公務員試験 2019年 国家一般職(行政) No.12解説

 問 題     

表現の自由に関するア~オの記述のうち,判例に照らし,妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。

ア.著作者は,自らの著作物を公立図書館が購入することを法的に請求することができる地位にあるとは解されないし,その著作物が公立図書館に購入された場合でも,当該図書館に対し,これを閲覧に供する方法について,著作権又は著作者人格権等の侵害を伴う場合は格別,それ以外には,法律上何らかの具体的な請求ができる地位に立つものではない。

イ.民事訴訟法は,職業の秘密に関する事項について尋問を受ける場合には,証人は証言を拒むことができると規定しているところ,ここにいう「職業の秘密」とは,その事項が公開されると,当該職業に深刻な影響を与え,以後その遂行が困難になるものをいう。もっとも,ある秘密が,このような意味での職業の秘密に当たる場合においても,そのことから直ちに証言拒絶が認められるものではなく,そのうち保護に値する秘密についてのみ証言拒絶が認められる。

ウ.少年事件情報の中の加害少年本人を推知させる事項についての報道,すなわち少年法に違反する推知報道かどうかは,その記事等により,不特定多数の一般人がその者を当該事件の本人であると推知することができるかどうかを基準にして判断するのではなく,本人と面識があり,又は本人の履歴情報を知る者が,その知識を手掛かりに当該記事等が本人に関するものであると推知することができるかどうかを基準に判断すべきである。

エ.インターネットの個人利用者による表現行為の場合においても,他の方法による表現行為の場合と同様に,行為者が摘示した事実を真実であると誤信したことについて,確実な資料,根拠に照らして相当の理由があると認められるときに限り,刑法に規定する名誉毀損罪は成立しないものと解するのが相当であって,より緩やかな要件で同罪の成立を否定すべきではない。

オ.表現の自由が自己実現及び自己統治の価値に資する極めて重要な権利であることに鑑み,出版物の頒布等の事前差止めは,その対象である評価・批判等の表現行為が公務員又は公職選挙の候補者に対するものであるか私人に対するものであるかにかかわらず,当該表現内容が真実でない場合又は専ら公益を図る目的でないことが明白である場合を除き,許されない。

1.ア,エ
2.ア,オ
3.イ,ウ
4.イ,エ
5.ウ,オ

 

 

 

 

 

正解 (4)

 解 説     

記述 ア ですが
船橋市西図書館蔵書破棄事件の判例によれば、公立図書館は公的な場であり、著作物が閲覧されている著作者が有する、思想・意見等を公衆に伝達する利益は法的保護に値する人格的利益 → 利益侵害された場合は、国家賠償法上違法となるべき とされました。つまり、損害賠償請求ができる地位に立つと考えられます。記述 ア は誤りです。

記述 イ は妥当です。
NHK 記者証言拒絶事件の判例 (H18.10.3) に関する記述です。

記述 ウ ですが
長良川事件報道訴訟の判例(H15.3.14) によれば、少年法 61 条の禁じる推知報道にあたるかどうかは「不特定多数の一般人が当該事件の本人であると推知できるかを基準とすべきである」とされました。「本人と面識があり、又は本人の履歴情報を知る者が・・・」ではありません。記述 ウ は誤りです。

記述 エ は妥当です。
ラーメン・チェーン店名誉毀損事件(H22.3.15) に関する記述です。

記述 オ ですが
北方ジャーナル事件の判例によれば、「出版物の頒布等の事前差止めは、このような事前抑制に該当するものであつて、とりわけ、その対象が公務員又は公職選挙の候補者に対する評価、批判等の表現行為に関するものである場合には、そのこと自体から、一般にそれが公共の利害に関する事項であるということができ・・・その表現が私人の名誉権に優先する社会的価値を含み憲法上特に保護されるべきであることにかんがみると、当該表現行為に対する事前差止めは、原則として許されないものといわなければならない。」とあり、対象である表現行為による違いがあることを示した表現となっています。記述 オ は誤りです。

以上より、正解は 4 です。

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