公務員試験 2019年 国家一般職(行政) No.3解説

 問 題     

政治心理に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。

1.G.アーモンドと S.ヴァーバは,1960 年代に米国,英国,西ドイツ,イタリア,メキシコの 5 か国で参与観察を行い,政治文化の比較を行った。彼らは,政治文化を未分化型,臣民型,参加型の 3 タイプに分類したうえで,これら三つが混在した状態は民主政治の不安定化につな

がると説いた。

2.R.イングルハートは,第二次世界大戦後から1970 年代という経済的繁栄と平和の時代に,先進産業諸国の国民に価値観の変化が生じたと主張している。彼の議論によると,この時期に幼年期を過ごした世代では,それまでの世代に比べ,自己実現といった非物質的価値を重視する「脱物質主義的価値観」が強い。

3.E.フロムは,『自由からの逃走』において,世論調査データの分析結果から,ドイツ人が自由主義的性格を強く持った民族であると主張した。この研究を批判したT.アドルノは,精神分析的手法を用いてドイツ社会を考察し,ナチズムの心理的基盤となった,ドイツ人の権威主義的性格について指摘した。

4.自分が政治から影響を受けているという有権者の感覚を「政治的有効性感覚」と呼ぶ。政治的有効性感覚は,有権者自身が政治の動きを理解できるといった自己能力に関する「外的有効性感覚」と,政治家や議会などが有権者の期待に応えてくれるかに関する「内的有効性感覚」に分類できる。

5.三宅一郎は,「政党支持の幅」という概念を用いて,日本人の政党支持態度の特徴を説明した。彼によると,日本の有権者は,特定の政党を安定的に支持し続ける傾向があるという点で,支持の幅が狭い。三宅はまた,我が国では,絶対に支持したくないという「拒否政党」を持つ有権者が存在していないと主張した。

 

 

 

 

 

正解 (2)

 解 説     

選択肢 1 ですが
G.アーモンドとS.ヴァーバは, 5 か国の比較世論調査の結果から,政治文化を「参加型」,「臣民型」,「未分化型」の三つに類型化しました。参加型の代表例が米、英です。臣民型の代表例が独、伊です。未分化型の代表例がメキシコです。(H29no2)。あくまでもこれは理念であり、現実の政治文化はこの三つの混在した状態となります。「三つが混在した状態は民主政治の不安定化につながると説いた」わけではありません。選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 は妥当です。
イングルハートは、心理学者マズローの欲求段階説をふまえ、脱工業化社会が 1960 年代に出現し、豊かな環境下育った世代が、それ以前と異なる価値観(脱物質主義的価値観)を持つと仮説設定しました。そして、アメリカや EC 諸国を対象に国際比較世論調査を行い、実証を試みました。(H26no2)。

選択肢 3 ですが
E.フロムは、精神分析的なアプローチに基づく「社会的性格」概念を用いて、第二次世界大戦前のドイツにおいて全体主義的体制が生まれた背景を考察し、当時の下層中産階級に典型的に見られたサド・マゾヒズム的な衝動を持つ「権威主義的性格」が、こうした体制に対する支持の基底にあると論じました。(H26no2)。「ドイツ人が自由主義的性格を強く持った民族である」と主張したわけではありません。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 ですが
有権者自身が政治の動きを理解できるといった自己能力に関する感覚が「内的」有効性感覚です。(H26no2)。内的と外的が逆です。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 ですが
一文目は妥当です。三宅一郎は「政党支持の幅」という概念を用いて、日本人の政党支持態度を分類しました。分析結果の特徴として、日本において「支持政党なし」の割合が相対的に多いことが知られています。また拒否政党を持つ有権者の存在は、見つかっています。選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 2 です。

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