問 題
炭素86.0wt%、水素13.5wt%、硫黄0.5wt%の組成の重油を空気比1.20で完全燃焼させたところ、煙突出口での乾き燃焼ガス中のSO2濃度が245ppmとなった。
この値は計算から予測される値より小さく、原因は煙道への空気の侵入と推定された。この場合、乾燥基準の侵入空気量は重油1kg当たり、およそ何m3Nとなるか。
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解 説
この問題は例年の計算問題と比べても難易度の高い問題といえます。極端な悪問・奇問というわけではありませんが、計算問題に自身のない方はこの問題を一旦後回しにしたほうがいいかもしれません。
まず、最終的には重油1kgあたりの侵入空気量が問われているため、以下では重油が1kgあるものとして話を進めます。
重油を1[kg]としたとき、炭素(C)は0.86[kg]、水素(H)は0.135[kg]、硫黄(S)は0.005[kg]であり、各成分は完全燃焼によって以下のようになります。
- C:燃焼によってCO2が生成する
- H:燃焼によってH2Oが生成する(乾き燃焼ガスとしてはノーカウント)
- S:燃焼によってSO2が生成する
以上から、完全燃焼の化学反応式は次のように書くことができます。なお、赤字の数字は消費したモル数、青字の数字は生成したモル数だと考えてください。また、それぞれの分子量はC:12、H:1、O:16、S:32です。
このあとの計算では上図の化学反応式をたびたび使うことに成るので、必要に応じて参照しながら解説を読んでください。
この設問では「侵入空気量が何m3Nか」が問われています。そのため、侵入空気量A侵[m3N]を使った式を用意したいところです。ここで、問題文に「乾き燃焼ガス」という言葉があるので、乾き燃焼ガス量G(=完全燃焼後に残っているガス量)を表わす式を立てると、下記のようになります。
上式の意味として、重油1[kg]を燃やすために予定空気量A[m3N]を使おうとしたら、意図せず侵入空気量A侵[m3N]も追加され、そこから燃焼によって消費酸素量V消[m3N]の分だけガス量が減った一方で、発生ガス量V発[m3N]の分だけ増えたということになります。このトータルが乾き燃焼ガス量G[m3N]を表します。
よって、侵入空気量A侵[m3N]を知るためには、それ以外のパラメータが全てわかればよいということになります。つまり、この先の方針は、以下の1.~4.をそれぞれ求めることになります。
- 乾き燃焼ガス量G [m3N]
- 予定空気量A [m3N]
- 消費酸素量V消 [m3N]
- 発生ガス量V発 [m3N]
1.の乾き燃焼ガス量Gに関して、問題文に「乾き燃焼ガス中のSO2濃度が245ppm」とあるので、以下の(2)式に示す等式が成り立ちます。
ここで、燃焼で生じたSO2は解説の冒頭に示した化学反応式より0.005/32[kmol]とわかっています。気体1[kmol]の体積は22.4[m3N]なので、以下のような計算によって乾き燃焼ガス量Gを算出することができます。
2.の予定空気量Aに関して、問題文に「空気比1.20で完全燃焼させた」とあるので、理論空気量A0の1.2倍が予定空気量Aとなります。
理論空気量A0について、解説の冒頭に示した化学反応式の酸素のところを全て足すと完全燃焼に必要な酸素のモル数が求まり、これを100/21倍すると理論空気量のモル数がわかります。そして、これに22.4を掛けることで体積に変換します。
(4)式と(5)式より、予定空気量Aは次の(6)式のようになります。
3.の消費酸素量V消に関して、これも理論空気量A0を求めたときと同じように化学反応式を使って考えることができます。今度は空気量ではなく酸素量なので、100/21倍などのひと手間は必要なく、より単純な計算で済みます。
4.の発生ガス量V発に関しても、消費酸素量V消と似たような計算によって求めることができます。ただし、問題文で乾き燃焼ガスで考えることが指定されているので、水素の燃焼で生じた水蒸気については計算に入れない(=無視できる)点に注意してください。
以上から、(3)式、(6)式、(7)式、(8)式を(1)式に代入すると、求めたい侵入空気量A侵[m3N]を算出することができます。
よって、正解は(4)となります。
コメント
このサイトの燃焼計算の解説を拝見して思うのですが、なぜ、気体燃料の場合はm3Nベースで計算しているのに、液体・固体燃料のときはmol数に割り戻して計算するのでしょうか?液体・固体燃料のときでも燃料1kgで考えて、ガス側をm3Nで考えれば、ガス燃料の場合と同様に計算できると思います。
C + O2 = CO2
H + 1/4O2 = 1/2 H2O
S + O2 = SO2
より完全燃焼時の量的な関係は、
12 kgのCは 22.4m3NのO2を必要とし、22.4m3NのCO2が発生する。
1 kgのHは 1/4 x 22.4m3NのO2を必要とし、1/2 x 22.4m3NのH2Oが発生する。
32 kgのSは 22.4m3NのO2を必要とし、22.4m3NのSO2が発生する。
この関係を導く過程で、燃料中のC, H, Sの量をkmolで考え、さらにガス側をm3Nにしていますので、このサイトの計算手順ででやっていることを、一回で済ませたことに相当します。
この関係を導いてしまえば、ガス側はm3Nベースで計算可能です。燃料1kgを考えると、炭素割合がc, 水素割合がh, 硫黄割合がsの燃料の理論空気量 A0 m3N/kgは、
0.21A0 = (c/12 + h/4 + s/32) x 22.4 -> A0=22.4/0.21 x (c/12 + h/4 + s/32)
解説では理論空気量を求めるのにいつも21:79の関係からN2のモル数を求めてO2のモル数と合計し、それをm3Nに戻していますね。O2の体積を0.21でわればそれが空気の体積です。
乾き排ガス量をG’ m3N/kg, 空気比をmとすると、
乾き排ガス量 = 供給した空気の量 - 燃焼で消費した酸素の量 + 燃焼で発生したCO2の量 + 燃焼で発生したSO2の量
より(ここから先は気体燃料と共通)、
G’ = mA0 – 0.21A0 +22.4 x (c/12 + s/32) = (m-0.21)A0 + 22.4 x (c/12 + s/32)
蛇足ながら、A0にN2を計上しているのでN2の量を考える必要はありません。
SO2濃度は定義から、
(SO2) = 22.4 x (s/32)/G’
これからは、この問題で考えます。
A0 = 22.4/0.21 x (c/12 + h/4 + s/32)
= 22.4/0.21 x (0.86/12 + 0.135/4 + 0.005/32) = 11.261
この問題では、供給した空気の他に侵入空気量が Y m3/kg あるので、
G’=(m-0.21)xA0 +22.4 x (c/12 + s/32) + Y
= (1.2-0.21) x 11.261 + 22.4 x (0.86/12 + 0.005/32) + Y
= 12.757 + Y
SO2の濃度は、
(SO2) = 22.4 x (0.005/32)/G’ = 22.4 x (0.005/32)/(12.757 + Y) = 245 x 10^-6
Yを計算すると、
Y = 22.4 x (0.005/32)/(245 x 10^-6) – 12.757 = 1.529 正解は(4)
解説にあるように、C, H, Sをmol数に割戻してmolでの量的関係からガス側のmol数を求めて、ガス側をmolベースで計算し、最後にそれをm3Nに戻す、という手順に比べ燃料中のC、H, Sのkgとm3Nの関係を使うこちらの計算方法の方がスッキリしていると思うのですが、いかがでしょうか。
要は
①燃料を1kg考えて、C, H, S,N, Oをkmol、関係するガスをm3Nで考える(このサイトの解説のmolとLの関係を使うという意味で同じ)。
②反応式から、ダイレクトに完全燃焼時の燃料1kgあたりの、必要空気量(理論空気量)、実際の供給空気量、排ガス量、個々の発生ガス量をm3Nベースで計算してしまう。
③あとは、ガス側でm3Nベースで計算する。
という計算手順ということです。このサイトの手順は、ガス側も頑なにmolベースで計算し最後にm3Nにもどす、という手順に相当します。全く同じ計算をしていることにはなりますが、ガス側をダイレクトにm3Nベースで計算する方がサイトの閲覧者には理解しやすいと私は思います。また、今年の問題4のような設問を考慮すると、ますますガス側の計算はm3Nベースにしたほうが良いのではと思います。管理者試験の燃焼計算が、kg, m3Nを単位としているにも関わらず、molベースでの計算に拘る理由はなんですか?
解説を修正しました。ご指摘ありがとうございます。
なお、計算をmolで進めるか体積で進めるかについては検討しましたが、高校1,2年生で化学の基礎を履修している受験者の方を想定し、化学反応式を用いるときにはmolで考えるようにしました。
もちろん、大学などで専門的な化学を学んだ方が、より高度な解法を使うことに異存はありません。
了解しました。どのように計算するかは好みの問題です。私はmolでの計算のほうが煩雑だと思います。ただし、高校化学を前提とするにしても、最低限
g, mol, L -> kg, kmol, m3N
にしての計算はすべきでしょう。
この設問の燃焼計算を解くに当たり、色々な方法がありますが、大切なことは、多くの受験勉強をしている方々がどの様な方法で学習されているかということです。先ず言えることは、テキストとして、「新・公害防止の技術と法規2021大気編」等々を活用されていると思います。別に宣伝するつもりはありませんが、やはり「過去問解説」が、それに沿って解説されていると何と無くしっくりくるものがあります。従って、私なりの解説になりますが、参考にしていただければ幸いです。
「新・公害防止の技術と法規2021大気編」の「技術編」P.20~P.22の Ⅲ.2.4 液体・個体燃料の燃焼計算で、理論空気量を求める式、
A₀=8.89c+26.7(h-o/8)+3.33s ・・・(1)
P.22の乾き燃焼ガス量を求める式、
G’=(m-0.21)A₀+1.867c+0.7s+0.8n ・・・(2)
設問では、加圧燃焼方式ではなく自然通風でのボイラーを想定しており、煙道ダクト内部は、負圧になっており、ダクトが経年劣化の為腐食して穴が開いて、そこからの外気が侵入している状況を想像して下さい。侵入している個所より後方にある排ガス測定点の二酸化硫黄の濃度が、245 ppmであるので、侵入空気量をAxとすると、
(SO₂)/(G’+Ax)=245×10⁻⁶ ・・・(3)
c=0.86 h=0.135 s=0.005 [kg/kg-Fuel], 空気比: m=1.2 , (SO₂)=0.7s=0.7×0.005
等を(1)式、(2)式、(3)式にそれぞれ代入すると、
A₀≒11.26
G’≒12.76
Ax≒1.52
が求まる。(1)式、(2)式は、液体燃料の燃焼計算では、公式として、暗記しておきたいです。
最初の指摘をした者です。議論が盛り上がるのはいいことだと思います。
サイトの運営者様へ
kg, kmol, m3Nへの変更は適切です。それと誤解していましたが、ここにある解説は内容的には、私が最初に指摘した計算方法そのものになっています。化学反応ですから、その段階ではmol(kmol)で考える必要がありますが、その後のガスの量は所詮理想気体仮定なのだからm3Nで行えばいいのではというのが私の指摘でした。
河合さんへ
組成が与えられたとき、液体・固体燃料の燃焼諸量を計算するのに組成から計算する方法を公式として利用するのは大賛成です。この試験でも頻繁に登場しますから、そこから出発しても閲覧者は理解できると思います。必要ならこの公式の導出過程を別途示せばいいと思います。
ただし、使用する公式については意見があります。理論空気量の式
A₀=8.89c+26.7(h-o/8)+3.33s (1)
は決して使用してはいけません。この公式は酸素濃度が21.0%の空気にしか適用できないからです。適用すべきは、
A₀=22.4/0.21 x (c/12 +h/4 -o/32 + s/32) (2)
です。(1)式は、(2)式をさらに計算(8.89 = 22.4/(0.21 x 12))しただけです。
酸素濃度が21%以外の例えば、酸素濃度を25%にした酸素富化空気の場合は、上式の0.21を0.25に変えるだけで適用できます。また、(2) 式に登場する数値は、全て原子量等の基本的な数値です。(1)式だと、8.89とか一見すると意味のない数値を暗記する必要があります。電卓のない昔なら(2)式を(1)式の形で暗記することに意味があったと思いますが、電卓使用では大差ないでしょう。燃料の組成が関係する式は全て同様です。
サイト管理者様へ
Hの燃焼の式ですが、
4H + O2 =2H2O
より、
H + 1/4 O2 = 1/2 H2O
の方がいいと思います。 後者の式なら 次のkmolの関係式に現れる係数の1 ,1/4, 1/2が自然に現れます。