ホルモンとは、主として血中に分泌され、少量で特異的な作用を発揮する物質のことです。
ホルモンの血中濃度は、フィードバックによってほぼ一定に維持されています。しかし、様々な原因により分泌異常が生じることがあります。ホルモン分泌異常に対して様々な薬が用いられます。これらの薬は、ホルモンそのものであったり、ホルモンの誘導体(構造が類似した化合物)であったりします。
ホルモン分泌異常治療薬は、作用機序に基づき大きく10に分類されます。
ⅰ.甲状腺刺激&プロラクチン分泌促進
ⅱ.黄体化ホルモン(LH)分泌促進
ⅲ.GnRH(gonadotropin-releasing hormone)誘導体
ⅳ.成長ホルモン(GH:growth hormone)
ⅴ.D2 受容体刺激薬
ⅵ.各種ホルモン 分泌抑制薬
ⅶ.持続性ソマトスタチン誘導体
ⅷ.T3 製剤
ⅸ.T4 製剤
ⅹ.甲状腺機能亢進治療薬
ⅰ.甲状腺刺激&プロラクチン分泌促進
このタイプの代表的な薬は
・プロチレリン(ヒルトニン)
などが挙げられます。
プロチレリンは、甲状腺刺激ホルモン(TSH:thyroid stimulating hormone)及びプロラクチン分泌を促進します。それらのホルモン分泌機能の検査に用いられます。
TSH、及びプロラクチンは下垂体前葉で作られます。プロラクチンは、別名乳汁分泌ホルモンと呼ばれます。
ⅱ.黄体化ホルモン(LH:Lutenizing Hormone)分泌促進
このタイプの代表的な薬は
・ゴナドレリン(LH-RH注)
などが挙げられます。
ゴナドレリンは、下垂体からの黄体化ホルモン(LH:Lutenizing Hormone)分泌を促進します。ホルモン分泌能検査に使われます。黄体化ホルモンは、女性の性周期を司るホルモンの一つです。
ⅲ.GnRH(gonadotropin-releasing hormone)誘導体
このタイプの代表的な薬は
・ブセレリン(スプレキュア)
・ゴセレリン(ゾラデックス)
・ナファレリン(ナサニール)
・リュープロレリン(リュープリン)
などが挙げられます。
ブセレリン、ゴセレリン、ナファレリン、リュープロレリンは、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(Gn-RH :gonadotropin-releasing hormone)誘導体と呼ばれます。反復投与により、下垂体における Gn-RH 受容体が脱感作をおこし性ホルモン分泌を抑制するという作用を持ちます。適応は乳がんや前立腺がんといった疾患です。
イメージとしては、性ホルモンの悪い影響による病気に対する薬であり、性ホルモンをださせなくするような薬といえます。
ⅳ.成長ホルモン(GH:growth hormone)
このタイプの代表的な薬は
・ソマトレリン(GRF)
などが挙げられます。
ソマトレリンは、成長ホルモン(GH:growth hormone)の分泌を促進する薬です。下垂体の成長ホルモンの分泌機能の検査に用いられます。
ⅴ.D2 受容体刺激薬
このタイプの代表的な薬は
・テルグリド(テルロン)
・ブロモクリプチン(パーロデル)
などが挙げられます。
テルグリド、ブロモクリプチンは、D2 受容体刺激薬です。D2 受容体刺激により、プロラクチンと呼ばれるホルモンの分泌が抑制されます。この薬の適応は、高プロラクチン血症です。プロラクチン濃度が高くなると、乳汁漏出症などの症状が現れます。
ⅵ.各種ホルモン 分泌抑制薬
このタイプの代表的な薬は
・ソマトスタチン
などが挙げられます。
ソマトスタチンは、各種のホルモン分泌を抑制する薬です。下垂体からの成長ホルモンや TSH の分泌を始めとした様々なホルモン分泌を抑制します。
ⅶ.持続性ソマトスタチン誘導体
このタイプの代表的な薬は
・オクトレオチド(サンドスタチン)
などが挙げられます。
オクトレオチドは、持続性ソマトスタチン誘導体です。先端肥大症や、下垂体性巨人症といった成長ホルモン過剰に伴う疾患に対する薬として用いられます。
ⅷ.T3 製剤
このタイプの代表的な薬は
・リオチロニンナトリウム(チロナミン)
などが挙げられます。
リオチロニンナトリウムは、甲状腺機能低下症治療薬です。甲状腺機能低下症は、クレチン症という名前の方が聞き馴染みがあるかもしれません。先天性、あるいは幼少時発症の甲状腺機能低下症を、特にクレチン症と呼びます。
リオチロニンナトリウムは、T3 製剤です。T3 とは、構造中に I (ヨウ素)が3つあるということを示します。T3 製剤は、作用強度が強いのですが作用の持続時間は短いという特徴があります。
ⅸ.T4 製剤
このタイプの代表的な薬は
・レボチロキシンナトリウム(チラージンS)
などが挙げられます。
レボチロキシンナトリウムは、甲状腺機能低下症治療薬です。甲状腺機能低下症は、クレチン症という名前の方が聞き馴染みがあるかもしれません。先天性、あるいは幼少時発症の甲状腺機能低下症を、特にクレチン症と呼びます。
レボチロキシンナトリウムは、T4 製剤です。T4 とは、構造中に I (ヨウ素)が4つあるということを示します。T4 製剤は、作用強度は弱いのですが作用持続時間が長いという特徴があります。T4 製剤は、末梢において、脱ヨウ素化されることにより、T3 となります。
ⅹ.甲状腺機能亢進治療薬
このタイプの代表的な薬は
・チアマゾール(メルカゾール)
・プロピルチオウラシル(チウラジール)
などが挙げられます。
チアマゾール、プロピルチオウラシルは、甲状腺機能亢進症治療薬です。甲状腺機能亢進症の原因として多いのがバセドウ病です。
チアマゾール、プロピルチオウラシルは、ペルオキシダーゼを阻害する薬です。ペルオキシダーゼはヨウ素を活性化ヨウ素へと変換する、体内の酸化過程を担う酵素です。このペルオキシダーゼを阻害することにより、T3 , T4 ホルモンが合成されないようにします。その結果、甲状腺機能亢進を抑制する作用を示します。
(おまけ:チアマゾールとプロピルチオウラシルの違いは何なのか?といえば、大きな違いが乳汁移行性です。プロピルチオウラシルの方が授乳婦には安心して使われています。)
ちなみに、プロプラノロールが甲状腺機能亢進症(主にバセドウ病による)における交感神経興奮状態に対して対症療法として用いられます。)
代表的なホルモン分泌異常治療薬をまとめると以下の表になります。
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