運動神経系は、末梢神経系における体性神経の一種です。(参考 生化学まとめました 1-2 2) 体性神経系)
運動神経系に作用する代表的な薬は3つあります。
・ 神経筋接合部刺激薬
・ 神経筋接合部遮断薬
・ 中枢性筋弛緩薬
以下、順に解説します。
◇神経筋接合部刺激薬◇
代表的な神経筋接合部刺激薬は
・ネオスチグミン(ワゴスチグミン)
・ピリドスチグミン(メスチノン)
・アンベノニウム(マイテラーゼ)
・エドロホニウム(アンチレクス)
などが挙げられます。( )の中が商品名の一例になります。
エドロホニウムは作用時間が短いため、重症筋無力症の診断に用いられます。この薬によって、筋力が一時的に著明に改善されると、重症筋無力症の可能性ありと診断されます。
◯◯チグミン(ネオスチグミン、ピリドスチグミン)、アンベノニウムは、重症筋無力症の治療薬に用いられます。
重症筋無力症とは、アセチルコリン受容体に対する「抗アセチルコリン受容体抗体」が体内で産生されることにより、アセチルコリンによる神経・筋伝達が阻害されるために脱力などがおきる自己免疫疾患です。
◇神経筋接合部遮断薬◇
神経筋接合部遮断薬は、作用機序に基づき大きく3つに分類されます。
ⅰ.競合的 Nm 受容体遮断薬
ⅱ.脱分極性筋弛緩薬
ⅲ.その他の末梢性筋弛緩薬
ⅰ.競合的 Nm 受容体遮断薬
このタイプの代表的な神経筋接合部遮断薬は
・ツボクラリン
・パンクロニウム(ミオブロック)
・ベクロニウム(マスキュラックス)
などが挙げられます。
ツボクラリン、◯◯クロニウムは、競合的 Nm 受容体遮断薬です。この薬を使用していても、大量のアセチルコリンや筋肉の直接の刺激があると筋肉が収縮することが特徴です。
ⅱ.脱分極性筋弛緩薬
このタイプの代表的な神経筋接合部遮断薬は
・スキサメトニウム(サクシン)
などが挙げられます。
スキサメトニウムは、脱分極性筋弛緩薬です。この薬の特徴は、筋弛緩の前に一過性の筋収縮が見られることです。又、作用時間は短い薬です。これは血漿のコリンエステラーゼにより速やかに分解されるためです。
ⅲ.その他の末梢性筋弛緩薬
このタイプの代表的な神経筋接合部遮断薬は
・ダントロレンナトリウム(ダントリウム)
・テトロドトキシン
・A型ボツリヌス毒素
・Mg2+
・ヘミコリニウム
などが挙げられます。
ダントロレンナトリウム、テトロドトキシン、A型ボツリヌス毒素、Mg2+、ヘミコリニウムはその他の末梢性筋弛緩薬です。
ダントロレンナトリウムは、筋肉の興奮-収縮連関を抑制します。そのため、筋を直接電気刺激しても収縮しなくなります。又、ダントロレンは悪性高熱症の治療薬として用います。
悪性高熱症は、全身麻酔の併発症の一つです。リアノジン受容体と呼ばれる受容体が深く関与していることがわかっています。
テトロドトキシンは、フグ毒です。神経細胞への Na+ の流入を抑制することにより作用します。
A 型ボツリヌス毒素は、ボツリヌス菌が産生する毒素です。神経終末からのアセチルコリン(Ach)放出を抑制することで作用します。顔面のけいれん治療や、シワ取りに用いられます。
Mg2+ は、カルシウムイオン(Ca2+)の代わりに神経終末へ流入し、Ach の放出を抑制することにより作用します。
ヘミコリニウムは、神経終末におけるコリンの取り込みを阻害することにより作用します。
◇中枢性筋弛緩薬◇
代表的な中枢性筋弛緩薬は
・クロルフェネシン(リンラキサー)
・チザニジン(テルネリン)
・トルペリゾン(ムスカルム)
・エペリゾン(ミオナール)
・バクロフェン(リオレサール)
・アフロクアロン(アロフト)
などが挙げられます。
クロルフェネシンは、脊髄の多シナプス反射(介在ニューロンがあるような反射)を抑制することで筋弛緩作用を示します。単シナプス反射(感覚神経→運動神経と直接つながっている反射)は抑制しません。
単シナプス反射の例(ほぼ唯一の例)は、膝を叩いたら足が動く(膝蓋腱反射)ことです。多シナプス反射は、ほとんどの反射です。
チザニジンは、中枢性α2 受容体刺激作用を持ちます。
◯◯ペリゾン(トルペリゾン、エペリゾン)は、多、単シナプス反射を両方抑制することで筋弛緩作用を示します。
バクロフェンは、GABA誘導体で、GABAB 受容体に作用します。
アフロクアロンは、脊髄から上位中枢の介在ニューロンを抑制することにより筋弛緩作用を示します。
代表的な運動神経系に作用する薬をまとめると以下の表になります。
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