代表的な精神疾患は3つあります。
・ 統合失調症
・ 不安などの神経症
・ 気分障害(躁、うつ)
以下、これらについて順に解説します。
◇統合失調症◇
統合失調症は、ドパミン及びセロトニンの過剰による種々の症状と考えられています。症状は大きく陽性症状と陰性症状に分類されます。
陽性症状とは、幻覚や幻聴などです。主にドパミン関与と考えられています。陰性症状とは、自発性減退、感情の平坦化などです。主にセロトニン関与と考えられています。
統合失調症薬は、作用機序や統合失調症薬の歴史に基づき、大きく 6 つに分類されます。
ⅰ.SDA (serotonin-dopamine antagonist)
ⅱ.MARTA(multi-acting-receptor-targeted-antipsychotics)
ⅲ.ドパミンセロトニンシステムスタビライザー
ⅳ.原型となった薬
ⅴ.原型の改良薬
ⅵ.統合失調症+消化性潰瘍治療薬
ⅰ.SDA
このタイプの代表的な統合失調症治療薬は
・リスペリドン(リスパダール)、
・ペロスピロン(ルーラン)
などが挙げられます。( )の前に書いたのが薬の一般名、( )の中が商品名の一例になります。
SDA は、D2 及び5-HT2A 受容体遮断作用を持つ薬です。つまり、セロトニン受容体及びドパミン受容体を阻害する薬です。SDA に分類される薬は、統合失調症の陽性症状のみならず、陰性症状も改善します。
ⅱ.MARTA
このタイプの代表的な統合失調症治療薬は
・オランザピン(ジプレキサ)
・クエチアピン(セロクエル)
などが挙げられます。
MARTA は、多様な受容体に結合し拮抗作用を持つ薬です。MARTA に分類される薬も、統合失調症の陽性症状のみならず、陰性症状も改善します。副作用として高血糖が出ることがよく知られており糖尿病患者へは禁忌となっています。
ⅲ.ドパミンセロトニンシステムスタビライザー
このタイプの代表的な統合失調症治療薬は
・アリピプラゾール(エビリファイ)
などが挙げられます。
アリピプラゾールは、新しい機序を持つ薬として注目が集まっている薬です。(2012年時点)ドパミン作動性神経伝達が過剰な時は D2 受容体を遮断し、神経伝達が低下しているときは、 D2 受容体を刺激するという作用をもちます。さらにセロトニン受容体にも拮抗作用を示します。これらの作用から、アリピプラゾールは「ドパミン・セロトニンシステムスタビライザー」と呼ばれることもあります。
ⅳ. 原型となった薬
このタイプの代表的な統合失調症治療薬は
・クロルプロマジン(ウインタミン、コントミン)
・チオリダジン(メレリル)
・フルフェナジン(フルメジン)
などが挙げられます。
クロルプロマジンは、統合失調症薬の原型となった薬です。フェノチアジン誘導体と分類されます。
チオリダジン、フルフェナジンもこのグループに分類される薬です。D2 受容体を初めとした、様々な受容体を遮断する作用を持ち特に陽性症状の改善作用を示します。
ⅴ.原型の改良薬
このタイプの代表的な統合失調症治療薬は
・ハロペリドール(セレネース)
・ブロムペリドール(インプロメン)
・スピペロン(スピロピタン)
などが挙げられます。
◯◯ペリドール、スピペロンは、クロルプロマジンの改良薬というイメージです。ブチロフェノン誘導体と分類されます。強い D2 受容体遮断作用を持ちます。
ⅵ.統合失調症+消化性潰瘍治療薬
このタイプの代表的な統合失調症治療薬は
・スルピリド(ドグマチール)
などが挙げられます。
スルピリドは、統合失調症だけでなく、抗うつ薬、消化性潰瘍薬といった多様な適用を持つ薬です。D2 受容体遮断が主な作用機序です。
統合失調症に使われる薬についてまとめると、以下の表になります。
◇ 不安などの神経症 ◇
不安などの神経症とは
心理的要因で心身機能障害を主張とする病態のことです。
セロトニン作動性神経活動の亢進が原因の1つであると考えられています。
抗不安薬は
大きく分けると2つに分類されます。
ⅰ. Bz(ベンゾジアゼピン)系
ⅱ. 非Bz系
ⅰ. Bz系
このタイプの代表的な抗不安薬は
・エチゾラム(デパス)
・ジアゼパム(セルシン、ホリゾン)
・オキサゾラム(セレナール)
・ロフラゼプ酸エチル(メイラックス)
・クロチアゼパム(リーゼ)
・ロラゼパム(ワイパックス)
などが挙げられます。
エチゾラム、ジアゼパム、オキサゾラム、ロフラゼプ酸エチル、クロチアゼパム、ロラゼパムは、Bz 誘導体です。
GABAA 受容体機能を亢進し、GABA 作用を増強することで抗不安作用を示します。
ⅱ.非Bz系
このタイプの代表的な抗不安薬は
・タンドスピロン(セディール)
・ヒドロキシジン(アタラックス)
などが挙げられます。
タンドスピロンは、脳内 5-HT1A 刺激薬です。5-HT1A 受容体を刺激することにより
セロトニン作動性神経の活動を抑制し抗不安作用を示します。
ヒドロキシジンは、抗ヒスタミン薬です。抗不安作用のみならず、抗アレルギー作用も持つ薬です。
抗不安薬をまとめると以下の表になります。
◇ 気分障害(躁、うつ) ◇
気分障害は、大きく2つに分類されます。躁病とうつ病です。
躁病は、感情障害、思考障害といった症状が見られます。躁病における感情障害とは、気分の異常な高揚、支離滅裂な言動などが上げられます。こういった「異常にハイ」な状態を躁状態と呼びます。
代表的な抗躁薬は、炭酸リチウム(リーマス)です。炭酸リチウムは、PI(ホスファチジルイノシトール)代謝回転の抑制を通じて抗躁作用を示します。PI 代謝回転とは、Gqタンパク質が関与する情報伝達系のことです。(薬理学まとめました 代表的な薬物受容体、細胞内情報伝達系 参照)
又、リチウムであまりよい反応が得られない場合に、カルバマゼピン(テグレトール)や
バルプロ酸(デパケン)も抗躁薬として用いられることがあります。
うつ病は、抑うつ気分、意欲減退といった症状が見られます。これらの「異常にロー」な状態をうつ状態と呼びます。
抗うつ薬は、大きく5つに分類できます。
ⅰ. 三環系抗うつ薬
ⅱ. 四環系抗うつ薬
ⅲ. SSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitors)
ⅳ. SNRI(Serotonin & Norepinephrine Reuptake Inhibitors)
ⅴ. NaSSA(Noradrenergic and Specific Serotonergic Antidepressant)
ⅰ.三環系抗うつ薬
このタイプの代表的な抗うつ薬は
・イミプラミン(トフラニール)
・クロミプラミン(アナフラニール)
・アミトリプチリン(トリプタノール)
・アモキサピン(アモキサン)
などが挙げられます。
イミプラミン、クロミプラミン、アミトリプチリン、アモキサピンは三環系抗うつ薬です。抗コリン作用が強いことが特徴です。2 ~ 3 文字目に「ミ」がある薬は三環系と覚えるとよいかもしれません。
ⅱ.四環系抗うつ薬
このタイプの代表的な抗うつ薬は
・マプロチリン(ルジオミール)
・ミアンセリン(テトラミド)
・セチプチリン(テシプール)
などが挙げられます。
マプロチリン、ミアンセリン、セチプチリンは、四環系抗うつ薬です。三環系と比べて抗コリン作用が弱いことが特徴です。
ⅲ.SSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitors)
このタイプの代表的な抗うつ薬は
・フルボキサミン(デプロメール、ルボックス)
・パロキセチン(パキシル)
・セルトラリン(ジェイゾロフト)
などが挙げられます。
フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリンは SSRI です。セロトニンの再取り込みを選択的に阻害することにより抗うつ作用を示します。SSRI は、パニック障害などにも用いられます。副作用が少ない抗うつ薬です。
ⅳ. SNRI(Serotonin & Norepinephrine Reuptake Inhibitors)
このタイプの代表的な抗うつ薬は
・ミルナシプラン(トレドミン)
・デュロキセチン(サインバルタ)
などが挙げられます。
ミルナシプラン、デュロキセチンは SNRI です。セロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害します。SSRI よりも効果の発現が速いことが特徴です。
ⅴ.NaSSA(Noradrenergic and Specific Serotonergic Antidepressant)
このタイプの代表的な抗うつ薬は
・ミルタザピン(レメロン、リフレックス)
などが挙げられます。
ミルタザピンは NaSSA です。中枢のシナプス前膜における α2 受容体及び、シナプス後膜 5-HT2 , 5-HT3 受容体に対する拮抗作用を示すことで、抗うつ作用を示します。
イメージとしては、α2 受容体、5-HT2 , 5-HT3 受容体は、ノルアドレナリン及びセロトニンの量をチェックするセンサーです。このセンサーに働きかけることでノルアドレナリンやセロトニンが少ないと認識させ、補充のためにノルアドレナリンやセロトニンを分泌させることで抗うつ作用を示す薬です。
気分障害薬をまとめると、以下の表になります。
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