イオン化法(イオン化部)

質量分析法(MS)における試料のイオン化の方法には様々な種類がありますが、この項ではその中でも主要である以下の5種類の方法について解説していきます。

  • 電子イオン化法(EI)
  • 化学イオン化法(CI)
  • 高速原子衝撃法(FAB)
  • マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)
  • エレクトロスプレーイオン化法(ESI)

電子イオン化法(EI)

電子イオン化法(Electron Ionization、EI)は、簡単にいえば試料に電子をぶつけることでイオン化する方法です。より具体的には、熱したフィラメントから高熱の電子が放出され、それを気体試料に衝突させてイオン化します。

熱した電子は高いエネルギーを持っているため、これを高速でぶつけると、当然試料の分子が受ける衝撃は大きく、分子間の結合が切れることがよくあります。

この開裂のことをフラグメンテーションといい、開裂した結果としてできたイオンをフラグメントイオンといいます。

この方法では試料のほうも予め熱して気体にしておかなくてはいけないので、熱に不安定な分子や気化しにくい高分子は扱えません。

また、フラグメンテーションが頻繁に起こるので、高分子だとバラバラになったフラグメントイオンの種類が多すぎて、どのみち解析が困難だという面もあります。

よって、電子イオン化法(EI)は分子量が1000くらいまでの比較的低分子を対象としたイオン化法になります。

化学イオン化法(CI)

化学イオン化法(Chemical Ionization、CI)は、メタンやアンモニアなどを予めイオン化(CH5+やNH4+に)しておき、それを気体試料にぶつけることで、試料にプロトン付加させてイオン化する方法です。

つまり、試料の分子量を M とすると、得られる測定結果は M+1 となります。

電子イオン化法と同じく試料の気化が必要なので、熱に不安定なものや高分子の化合物の分析には向きませんが、電子イオン化法と違ってフラグメンテーションが起こりにくいという特徴があります。

高速原子衝撃法(FAB)

高速原子衝撃法(Fast Atom Bombardment、FAB)は、試料とマトリックス(グリセリンなど)を混ぜ合わせ、そこにアルゴンやキセノンなどの不活性な原子を高速でぶつけることで、試料をイオン化する方法です。

上記2つの方法のように試料を気化させる必要がないので、熱に不安定な化合物でも測定可能です。

エレクトロスプレーイオン化法(ESI)

エレクトロスプレーイオン化法(ElectroSpray Ionization、ESI)は、LC/MS(液体クロマトグラフ質量分析計)用のイオン化法です。

まず、試料を溶媒に溶かし、それを高電圧のかかったキャピラリー(極細のストローのようなもの)から噴霧します。

そうして帯電した状態で噴霧された霧状の液体のうち、溶媒が揮発することでイオン化された試料が残る仕組みとなっています。

この方法はフラグメンテーションがかなり起こりにくく、数万~数十万の高分子化合物でも測定することが可能です。よって、タンパク質やペプチドなどの生体高分子化合物の分析に向いているといえます。

また、ほかの多くのイオン化法ではイオン化部を高真空状態にする必要がありますが、ESIは大気圧化でイオン化できます。

マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)

マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(Matrix Assisted Laser Desorption Ionization、MALDI)は、試料とマトリックス(芳香族化合物など)を混ぜあわせ結晶化し、これにレーザーを照射することで試料をイオン化する方法です。

エレクトロスプレーイオン化法(ESI)同様、フラグメンテーションが起こりにくいので、分子量が数万~数十万といったタンパク質やペプチドなどの生体高分子化合物の測定を得意とします。

さらに、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)の場合は、試料が極微量しかなくても測定できるという点や試料の純度がそこまで高くなくても測定できるという点が大きなメリットになります。

ちなみに、このMALDIの開発によって田中耕一さんが2002年にノーベル化学賞を受賞しました。

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