紫外可視吸収スペクトルの概要

紫外可視吸収スペクトルとは

紫外可視吸収スペクトルとは、IRのときの赤外線が紫外線や可視光線に置き換えられたものといえます(IRについてはIRスペクトルの概要のページを参照してください)。

これを利用すると、IRやNMRなどのスペクトルと同様、構造決定のヒントとなる情報が得られます。

ただし、紫外可視吸収スペクトルから得られる情報は、1H-NMRはもちろんのこと13C-NMRやIRと比べても情報が少ないので、ほかのスペクトルの情報をサポートする程度の役割だと考えてください。

紫外可視吸収スペクトルの原理

分子中に存在している電子は普通、より安定な基底状態をとっています。しかし、外部からエネルギー(紫外線や可視光線)を加える(照射する)と、電子が励起して、より高いエネルギー準位に遷移します。

ある特定の電子が基底状態から励起状態になるために必要なエネルギー量は決まっているので、紫外線または可視光線を吸収したときの波長から、未知試料の構造(の一部)を推測することができます。

波長は 200nm ~ 800nm くらいの範囲の光を使い、分子によって吸収される度合いが違うので、そこを測定します(約400nmを境に、それより短いのが紫外線、長いのが可視光線です)。

ちなみに、単結合(σ結合)は基底状態と励起状態の間のエネルギー差が大きいため、紫外線や可視光線を照射しても励起が起こりません。よって、単結合のみからなる化合物にこの方法は適用できません。

一方、二重結合などのπ結合であれば励起状態へ遷移するためのエネルギーが少なくて済むので、この方法はπ結合の状態を調べるための測定法ともいえます。

紫外可視吸収スペクトルの装置

紫外可視吸収スペクトルの装置は、光源、分光部、試料部、検出部、記録部で構成されます。

光源として使われるのは、紫外線なら重水素ランプ、可視光線ならタングステンランプです。

分光部は、光源から出た光のうち、特定の波長のみをより分けて試料部へ送るための場所です。

試料部では、分光部から照射される単一波長の光を、液体試料の入ったセルに通過させます。この際、もし試料に入射光を吸収するようなπ結合があれば、透過光は吸収した分だけエネルギーが小さくなります。

入射光と透過光の間には以下の式で示す関係があり、これをランバート・ベールの法則といいます。

ちなみに、上式の左辺にあるを透過度といい、透過度の逆数に対して常用対数をとったものを吸光度といいます(透過度の常用対数ではなく、透過度の逆数の常用対数である点に注意です)。

また、試料を入れるセルの材質も重要で、紫外線のときは石英セルを使います(ガラスセルはNG)。これは、ガラスセルだとそれ自身が紫外線を吸収してしまい、測定誤差を生じるためです。

可視光線のときはそのようなことにならないので、セルは石英セルでもガラスセルでも大丈夫です。

その後、検出部にて透過光の強度が測定され、最後に記録部にて測定結果を出力します。

以上が紫外可視吸光度測定法の流れです。

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