IRとは
IRは、InfraRed absorption spectrometryの略で、赤外吸収スペクトルなどと訳されます。
これを利用すると、未知の分子が有している官能基を知ることができます。ただし、1H-NMRと違って、その官能基が構造中にどのように並んでいるかまでは知ることができません。
あくまでも、構造中にカルボン酸があるとか、アミンがあるといった程度のことなのでIR単独で構造決定ができるわけではなく、1H-NMRやほかのスペクトルと組み合わせることで構造決定に役立つと考えてください。
IRの原理
試料に赤外線を照射すると、試料は赤外線を吸収してその分子が振動・回転します。これは、赤外線のエネルギー帯が、分子内の原子間の結合の振動エネルギー帯と一致するためです。
具体的には、原子間の結合(ばねをイメージしてください)が伸び縮みするような振動を伸縮振動、2つの結合(H2Oの2つのO-H間をイメージしてください)の間の角度(=結合角)が広がったり狭まったりするような振動を変角振動といいます。
官能基ごとに、カルボン酸ならある特定のエネルギーを持った赤外線を吸収することで伸縮振動や変角振動を起こし、また、アミンなら別の特定のエネルギーを持った赤外線照射によって振動するため、どの波数の赤外線を吸収して振動したかによって、その分子が構造中に有する官能基の種類がわかります。
IRスペクトル
以下はIRスペクトルの一例です。これはプレドニゾロンという分子で、その構造式は次の通りです。
代表的な官能基の特性吸収については次項で一覧にまとめてあります。ここではIRスペクトルの解析はどのように行うのかをイメージできればいいので、大雑把な説明に留めます。
まず、1,500cm-1以下のゴチャゴチャしたところは、いわゆる指紋領域といわれる吸収帯で、ここを見ていてもどんな官能基が含まれているかは良くわかりません。
ただし、この部分はその分子ごとに固有のかたちを取っているため、もし同じ分子のIRスペクトルであれば、この複雑な部分でさえもきっちり一致するため、未知化合物と既知化合物を比較する際などに使えます。これが指紋領域と呼ばれる所以です。
もちろん、同じ化合物であれば1,500cm-1以上の部分も一致するわけですが、こちらは有する官能基が一緒であれば異なる化合物同士でもかなり似たかたちをしてくるため、1,500cm-1以上の部分が一致するからといって同一化合物と決めつけることはできません。
1,500cm-1以上の部分を順番に見ていくと、まずは1,600cm-1、1,650cm-1、1,700cm-1あたりに吸収が見られます。
C=Cの二重結合があると1,500~1,650cm-1くらいのところに吸収が見られるので、今回の場合、1,600cm-1付近に見える2つの吸収が、プレドニゾロンの2組のC=C二重結合に対応します。
また、カルボニル基があると1,650~1,800cm-1くらいのところに吸収が見られるので、今回の場合、1,650cm-1と1,700cm-1の吸収がプレドニゾロンの2組のC=Oに対応します。
続いて、3,000cm-1より少し手前にあるのがC-H単結合です。普通の有機化合物であればC-H単結合を持つのは当たり前なので、この部分からはあまり有益な情報が得られないと考えていいです。
(厳密にいえば、メチル基とかメチレン基とかによって少しずつ吸収位置が変わってくるのですが、微々たる差しかない上、化合物によっても変わってくるため、あまり気にしないでいいと思います。)
最後に、ヒドロキシ基は3,200~3,600cm-1くらいのところに吸収が見られます。プレドニゾロンは図中の右上にちょうどヒドロキシ基があるので、これに対応します。
以上がIRの概要でした。
次項では上記で扱った官能基も含め、代表的な官能基の吸収帯をまとめていますので、併せて確認してください。
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