Markovnikov(マルコフニコフ)則
対称アルケンにハロゲン化水素(HX)を付加させた時は単一の生成物となりますが、非対称アルケンでは理屈の上では2つの生成物が考えられます。
上図の2つの生成物は実際には半分半分が生成するわけではなく、どちらか一方が選択的に生成されます。ここでどちらの化合物ができるかを考える際に、Markovnikov (マルコフニコフ)則というルールを使います。
Markovnikov 則とは、反応は安定なカルボカチオン中間体が生成するため、ハロゲン化水素(HX)の H は水素がより多く結合している炭素に付加する、というルールです。
ここで、上の説明文にあるカルボカチオンの安定性について補足説明をします。
カルボカチオンとは炭素に正電荷が付いた陽イオン(カルボ=炭素、カチオン=陽イオン)を指しますが、正電荷の付いた炭素の周りの状況によって、第三級、第二級、第一級、メチルカチオンの4種に分類されます。
第三級カルボカチオンは、正電荷の付いた炭素に3つのアルキル基が結合していて、第二級は2つのアルキル基と1つの水素、また第一級は1つのアルキル基と2つの水素が結合しています。そしてカルボカチオンは、3つとも水素が結合したものです。
その安定性は一般的に
- 第三級 > 第二級 > 第一級 > メチルカチオン
となりますが、これはアルキル基が多く結合しているほど、カチオンに電子を分け与えて電荷の偏りを和らげることができるためです(アルキル基は電子供与基です)。
以上がカルボカチオンの安定性の話でした。ここから話を Markovnikov 則に戻します。
例えば最初の図の上下の反応中間体を見比べますと、上は第三級カルボカチオンで、下が第一級カルボカチオンになっています。そうすると第三級のほうが第一級よりも安定であるため、結果的にこの反応では図1の上側の生成物ができあがるということになります。
ここまでが理解できれば Markovnikov 則の考え方は大丈夫ですが、以下に具体例を示しておきます。
ハロゲン化水素の付加
例えばブタ-1-エンと臭化水素の反応では、以下の通りになります。
ここでは上図のように中間体が第二級または第一級カルボカチオンとなります。第二級のほうがより安定であるため、結果的にはそちらを経た反応が選択的に進行します。
水の付加
例えば2-メチルプロペンと水の反応を考えてみます。この反応も前述の HX の時と同じように Markovnikov 則に従って付加反応が起こります。ただし、反応の進行には硫酸やリン酸などの酸触媒が必要となります。
この場合、上図の通り第三級と第一級カルボカチオンが中間体になります。よって、より安定な第三級を経たアルコールが生成することになります。
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